わかる|いま自分はどこにいるか — 重症度の見立て
この章の狙い
要点: 軽い段階と重い段階では、効く手が違う。自分の位置を測らずに方法を選ぶと、 必要な手を打たないか、必要のない手に力を使うことになる。
この章では、5つの軸で自分を測り、3つの段階のどこにいるかを決める。 所要は15分ほど。紙とペンを用意してから読み進めてほしい。
なぜ、見立てから始めるのか
同じ「ポルノをやめたい」でも、中身はまったく違う。
- 週に2回、寝る前に見る。翌日に影響はない。ただ「習慣として嫌だ」
- 1日に4〜5回。仕事の合間にも見る。睡眠が削れ、遅刻が増えた
- 見る時間より探す時間が長い。内容は数年前と大きく変わった。現実の性で反応しない
この3つに同じ助言をしても、当たるのは1つだけである。 軽い人に重い手を勧めれば続かない。重い人に軽い手を勧めれば効かない。
さらに、重い段階には自力で扱ってよい範囲を超える部分がある。 その線をここで確認しておくことが、この章のもう一つの目的である。
測る5つの軸
頻度だけを見てはいけない。少なくとも次の5つを別々に測る。
軸1 頻度 — どれくらいの回数か
1週間あたりの回数を数える。記憶ではなく、直近1週間の実数で。 数えられない場合、それ自体が情報である。 数えられないほど多いか、 数えたくないほど気が重いか、どちらかである。
軸2 時間 — どれくらいの長さか
1回あたりの時間ではなく、探している時間を含めた合計を測る。 ここが重要で、重くなるほど「探す時間」が伸びる。行為そのものより、 次を探して画面を切り替え続ける時間のほうが長くなっていく。
📘 探索時間:目的の刺激を見つけるまで、内容を切り替え続けている時間。重症度に応じて伸びる。
軸3 制御の感覚 — 選んでいるか、始まっているか
「やろうと決めて始めた」のか、「気づいたら始まっていた」のか。 後者の割合が上がるほど重い。
判断の手がかりは、やめようとした回数と、実際に止まった回数の差である。 今週やめようと思った回数が5回で、止まったのが0回なら、制御はほぼ効いていない。
軸4 生活への支障 — 何が削られているか
次の5つのうち、いくつが削られているかを数える。
| 領域 | 削られている例 |
|---|---|
| 睡眠 | 寝る時刻が後ろにずれる、睡眠時間が減る |
| 仕事・学業 | 集中が続かない、遅刻、締切に間に合わない |
| 対人関係 | 誘いを断る、人と会う時間が減る |
| 金銭 | 課金や有料の利用が増えている |
| 健康 | 運動しなくなった、食事が乱れた |
支障がゼロなら、軸1と軸2が大きくても重度にはならない。 逆も同じで、 回数が少なくても支障が大きければ軽くはない。
軸5 内容の変化 — 何を見ているか
1年前、3年前と比べて、見ている内容が変わったか。 変わっているなら、どの方向に変わったか。
- 変わっていない
- 種類が増えたが、質は変わっていない
- より強い刺激、より過激な内容に移った
- 以前なら不快だと感じたはずのものを見ている
下に行くほど重い。ここは第5章でまるごと扱う、この教材の中心の一つである。
⚠️ 軸を混ぜてはいけない
- 回数が多い=重い、と決めない。支障がなければ重度ではない。
- 支障がない=問題なし、と決めない。内容が動いているなら別の警告である。
- 5つの軸は独立して動く。合計だけを見ると、どの手を打つべきかが分からなくなる。
20項目の自己点検
紙に1〜20を書き、当てはまるものに印を付ける。正直に付けないと意味がない。 この紙は誰にも見せなくてよい。
| 番号 | 項目 |
|---|---|
| 1 | 週に4回以上見ている |
| 2 | 1日に2回以上の日が、週の半分以上ある |
| 3 | 探している時間のほうが、実際の行為より長いことがある |
| 4 | 1回に1時間以上かかることがある |
| 5 | やめようと決めたのに、その日のうちに戻ったことが今月ある |
| 6 | 気づいたら始まっていた、という形が多い |
| 7 | 今週、やめようと思った回数を数えられない |
| 8 | 見た直後に強い後悔や自己嫌悪が来る |
| 9 | 睡眠時間が、これのために減っている |
| 10 | 仕事や学業の予定に遅れたことがある |
| 11 | 人と会う予定を、これを理由に断ったことがある |
| 12 | 有料の利用や課金が増えている |
| 13 | 見ている内容が、1年前と明らかに変わった |
| 14 | 以前は興奮しなかった種類のものを見ている |
| 15 | 見ていて、自分でも不快に感じる内容が混じっている |
| 16 | 現実の性行為で、思ったように反応しないことがある |
| 17 | 現実の相手より、画面のほうが確実に反応する |
| 18 | 家族やパートナーに隠すために、具体的な工夫をしている |
| 19 | 見られそうになって、慌てて消したことが複数回ある |
| 20 | これについて、誰にも一度も話したことがない |
点数の読み方
印の数を数える。ただし、数だけで決めない。 次の表を使う。
| 印の数 | 段階 | 追加の条件 |
|---|---|---|
| 0〜5 | 軽度 | 項目9〜12がすべて無印であること |
| 6〜12 | 中等度 | — |
| 13以上 | 重度 | — |
← 横に動かして読めます →
印の数が5以下でも、項目13〜17に3つ以上印が付いていれば中等度として扱う。 内容の変化と性機能への影響は、回数とは別の軸で進行するためである。
実際に数えるときの決めごと
数え始めると、必ず「これは1回に数えるのか」で迷う。先に決めておく。
| 迷う場面 | この教材での数え方 |
|---|---|
| 見たが最後までいかなかった | 1回に数える(時間も記録する) |
| 30分の間に2回 | 2回に数える |
| 見ただけで行為はしていない | 1回に数える。軸2の時間に含める |
| 画像や文章だけ | 1回に数える。種類は問わない |
| 想像しただけ | 数えない。ここは対象にしない |
「想像しただけ」を数えないのは重要である。 ここまで数え始めると、 頭の中の出来事すべてが失敗の証拠になり、罪悪感だけが増えて記録が続かなくなる。
時間の測り方は、端末を手に取ってから離すまででよい。 細かい正確さは要らない。5分刻みで足りる。
3人の例で、見立てを練習する
自分に当てはめる前に、他人の例で練習しておくと精度が上がる。
例A
週2回、寝る前に20分ほど。翌日に影響はない。1年前と内容は変わっていない。 現実の性行為に問題はない。ただ「習慣として嫌だ」と感じている。 やめようと思ったことは何度かあるが、本気で試したことはない。
→ 軽度。 印は1〜2個。支障の項目はすべて無印。 打ち手は第8章の目標設定と第10章の環境で足りる。 ただし本人が「本気で試したことがない」と言っている点は要注意で、 試したら止まらないことが分かる可能性がある。4週間後に測り直す。
例B
平日は1日1〜2回、休日は3回以上。1回30分から1時間。 探している時間のほうが長い日がある。寝る時刻が1時間ほど後ろにずれた。 やめようと決めた日にそのまま戻ることが、今月2回あった。 内容は「種類が増えた」程度で、方向は変わっていない。現実の性行為に問題はない。
→ 中等度。 印はおよそ8個。支障は睡眠に出ている。制御が効かない場面がある。 第9章の記録から第13章の再発まで、順に全部を進める。 特に、寝る時刻のずれが引き金と結果の両方になっている可能性が高い。
例C
回数は自分でも分からない。仕事の合間にも見る。合計時間は1日2〜3時間になる日がある。 遅刻が増えた。誘いを断ることが増えた。内容は3年前と大きく変わり、 以前なら不快だと感じたものを見ている。現実の相手では反応しないことが増えた。 このことを誰にも話したことがない。
→ 重度。 印は15個前後。5つの軸すべてが動いている。 全章を順に進めるが、始める前に第14章の相談先を読む。 一人で離脱期を越える計画を立ててから第II部に入る。
例の使い方
自分の状況をこの3つに当てはめようとしないこと。 やってほしいのは、自分の状況を同じ形式で書き出すことである。 5つの軸それぞれについて2〜3行。それが自分の見立ての記録になる。
他人の平均と比べない
「普通はどれくらいなのか」を知りたくなるが、この比較は役に立たない。理由は3つある。
- 調査によって数字が大きく違う。 質問の仕方と対象で結果が変わる
- 正直に答えられていない可能性が高い。 少なめに申告されやすい
- 平均が自分の基準にならない。 平均以下でも支障が出ていれば問題であり、平均以上でも支障がなければ対象ではない
比べる相手は他人ではなく、3か月前の自分である。 それが第9章の記録を取る理由の一つでもある。
⚠️ 比較でやりがちなこと
- 掲示板や動画で見た「もっと重い人」と比べて安心する
- 統計の平均値を自分の目標にする
- パートナーや友人の頻度を基準にする
3つの段階と、打つべき手
段階が決まったら、この教材のどこに力を入れるかが決まる。
| 段階 | 状態 | 力を入れる章 |
|---|---|---|
| 軽度 | 習慣として続いているが、生活は無事 | 第8章(目標)・第10章(環境)で足りることが多い |
| 中等度 | 支障が出始めている。制御が効かない場面がある | 第9章(記録)から第13章(再発)まで、順に全部 |
| 重度 | 生活が複数の面で削られ、内容も動いている | 全章。加えて第14章の相談先を、始める前に確認する |
← 横に動かして読めます →
軽度の人へ
第I部を通読したら、第8章で目標を決め、第10章で環境を作る。 それで数週間試して、回数が下がるなら続ける。下がらなければ中等度として扱い直す。
軽度でも記録は取る。 第9章の記録は、軽度の人にとっては「本当に軽度か」の確認になる。
中等度の人へ
この教材の想定の中心である。順番を飛ばさないこと。 特に第9章の記録を2週間続けてから第10章に進む。 引き金が分かっていない状態で環境を作ると、見当違いの場所に手を打つことになる。
重度の人へ
まず、この章の最後の「専門家に渡す線」を確認する。当てはまるなら、教材より先に相談へ。 当てはまらない場合も、一人で全部やろうとしないほうがよい。 第14章の相談先の項を、最後ではなく今のうちに読んでおく。
重度では、離脱期(第11章)が明確に出ることが多い。 そこを一人で越える計画を、始める前に立てておく必要がある。
見立てを間違える、2つの方向
少なく見積もる
最も多い誤りである。理由は3つ。
- 比較の相手が偏っている。 自分より重い人の話ばかり見ていると、自分は軽く見える
- 支障を支障と認識していない。 「もともと寝つきが悪い」「もともと集中力がない」と処理している
- 数えていない。 記憶は少なめに出る。実際に数えると、たいてい想定より多い
対策は1つ、1週間だけ実数を数えることである。第1章の3行記録がそのまま使える。
多く見積もる
こちらもある。罪悪感が強い人に多い。
週に1回、支障ゼロでも「自分は依存だ」と結論してしまう。 この見立ての害は、必要のない厳しい制限をかけて、その反動で崩れることである。
区別の手がかりは軸4である。生活が実際に削られているか。 削られていないなら、問題は行為ではなく罪悪感の側にある。第7章を先に読むこと。
⚠️ 見立てでやりがちな誤り
- 記憶で数える。実数を数えない
- 自分より重い例と比べて「まだ大丈夫」とする
- 罪悪感の強さを重症度と取り違える
- 1回測って終わりにする(状態は動く)
併存している問題を確認する
この行動だけが単独で起きていることは、実は少ない。 次のどれかが同時にあると、この行動だけを止めようとしても止まらない。
| 併存(へいそん)しやすいもの | 現れ方 |
|---|---|
| 気分の落ち込み | 何をしても楽しくない。朝が最もつらい |
| 不安 | 心配が止まらない。体が緊張している |
| 注意の偏り | 集中が続かない。刺激がないと動けない |
| 強迫的な傾向 | 確認や繰り返しがやめられない。頭から離れない |
| 睡眠の問題 | 寝つけない。夜が長い |
このうち、睡眠の問題は例外なく先に手を付ける価値がある。 夜が長いことは、それ自体が最大の引き金になるためである。
他の4つについては、この教材では扱いきれない。 当てはまるものが2つ以上あるなら、この教材と並行して医療機関にかかることを勧める。 片方だけを扱うと、もう片方が引き戻す。
📘 併存:2つ以上の問題が同時に存在していること。一方だけを扱っても改善しにくい。
専門家に渡す線(確認)
第1章で挙げた条件を、見立てが済んだいま、もう一度確認する。
⚠️ 教材だけで扱ってはいけない場合
- 死にたい気持ちがある。自分を傷つける行為がある
- 未成年が写ったもの、実際の暴力の記録に向かっている
- 相手の同意なしの性的な行為をした、またはその衝動が強い
- 止めると、生活が成り立たないほどの不安や落ち込みが出る
- 上の「併存しやすいもの」が2つ以上ある
該当した場合の相談先は、大きく3つある。
| 相談先 | 向く場面 |
|---|---|
| 精神科・心療内科 | 気分や不安の問題が併存している。薬の検討が要る |
| 精神保健福祉センター | どこにかかればよいか分からない。費用が不安 |
| 依存を扱う専門機関・自助グループ | 同じ問題の当事者と話したい |
「まだ行くほどではない」と思ったら、それは少なく見積もっている合図かもしれない。 相談に行って「軽いですね」と言われるのは、失敗ではなく確認である。
なぜ「探している時間」が指標になるのか
軸2で探索時間を分けて測る理由を、ここで説明しておく。あとの章の土台になる。
行為そのものにかかる時間は、重症度が上がってもあまり変わらない。 伸びるのは探している時間のほうである。
理由は単純で、満足しにくくなっているからである。 1つ見て終わらず、次を探す。それも違うので、また次を探す。 この「次を探す」という動きこそが、依存の中心にある。
ここから2つのことが導かれる。
- 重症度は、行為の回数より探索時間のほうによく現れる
- 対策も、行為そのものより探し始める瞬間を狙うほうが効く
第3章で仕組みを、第10章でその瞬間を止める方法を扱う。 いまの段階では、「探す時間を別に数える」ことだけ守ればよい。
見立てを、1枚に書き出す
測った結果は、頭の中に置かず紙に書く。次の形式でよい。
| 項目 | 記入欄 |
|---|---|
| 測った日 | |
| 軸1 週あたりの回数 | |
| 軸2 週あたりの合計時間(探索を含む) | |
| 軸3 やめようとした回数 / 止まった回数 | |
| 軸4 削られている領域(5つのうちいくつ) | |
| 軸5 内容の変化(4段階のどれか) | |
| 20項目の印の数 | |
| 段階(軽度・中等度・重度) | |
| 併存で当てはまったもの |
この1枚を、4週間後にもう一度書く。2枚並べたときに初めて、何が動いたかが見える。 1枚では何も分からない。だから、いま書くことに意味がある。
パートナーがいる場合の追加
パートナーがいるなら、次の2つも書き添えておく。第14章で使う。
- 相手はこのことを知っているか(知らない/薄々気づいている/知っている)
- 二人の性生活に、自分が感じている変化はあるか
いま打ち明ける必要はない。 ここでは自分の把握のために書くだけである。 打ち明けるかどうかの判断は、第14章で扱う。
見立ては、1回では終わらない
状態は動く。特に次の場面では、必ず測り直す。
- 第II部を始めて4週間たったとき
- 強い再発があったとき
- 生活が大きく変わったとき(転職、引っ越し、別れ、繁忙期)
測り直しは、20項目をもう一度つけるだけでよい。 前回の紙と並べて、 どの軸が動いたかを見る。減った軸と減っていない軸が分かれば、次に打つ手が決まる。
⚡ 第2章の通過チェック
- 5つの軸をすべて言える(頻度・時間・制御・支障・内容の変化)
- 20項目に印をつけ、自分の段階(軽度・中等度・重度)を決めた
- 直近1週間の実数を数えた(記憶ではなく)
- 併存しやすい5つを確認し、2つ以上該当しないことを確かめた
- 専門家に渡す線に該当しないことを確かめた
⚡ この章の暗記必須ボックス
【5つの軸】 頻度 / 時間(探索時間を含む) / 制御の感覚
生活への支障 / 内容の変化
【段階の目安】 0〜5 軽度(支障の項目がすべて無印) / 6〜12 中等度
13以上 重度
※印が5以下でも 内容と性機能の項目に3つ以上 → 中等度
【段階と打ち手】 軽度 → 目標と環境で足りる
中等度 → 記録から再発まで順に全部
重度 → 全章+相談先を先に確認
【見立ての誤り】 少なく見積もる(記憶で数える・重い例と比べる)
多く見積もる(罪悪感を重症度と取り違える)
【併存】 気分 / 不安 / 注意の偏り / 強迫 / 睡眠
2つ以上あるなら、並行して医療機関へ
睡眠だけは例外なく先に手を付ける
次章へ
自分の位置が決まった。ここからは「なぜそうなるのか」に入る。
次の第3章では、脳の側で何が起きているのかを見る。 耐性・感作(かんさ)・手がかり反応という3つの言葉で、 「見ても前ほど良くないのに、探すのはやめられない」という状態が説明できるようになる。