現在地を測る|いま自分はどこにいるか — 重症度の見立て
この章の狙い
要点: 使っている時間で自分を裁かない。見るのは「やめようとして、やめられたか」と「そのせいで生活が実際に止まっているか」の2点である。この2点の重さによって、次にやることが変わる。
回復の手順を一つも間違えずに実行しても、そもそも自分がどの段階にいるかを取り違えていると効かない。軽い人が重い人向けの断ち方をすれば、必要のない我慢で消耗する。重い人が軽い人向けの工夫だけで済ませようとすれば、何度やっても戻る。
この章では3つのことをする。自分の重症度を測ること、専門家に相談すべき状態かどうかを見分けること、そしてその裏に別の問題が隠れていないかを確かめることである。ここを飛ばして第5章以降に進まないでほしい。順番に意味がある。
時間で線を引かない
「1日3時間以上なら依存」というような時間の基準を、あちこちで見かける。この線引きは使えない。
理由は単純で、同じ時間でも意味がまったく違うからである。1日3時間ゲームをしている大学生が、講義に出て、バイトに行き、友人と会い、7時間眠っているなら、それは趣味である。一方で1日1時間しか見ていなくても、その1時間が毎晩午前2時からで、翌朝の1限を落とし続けているなら、時間の短さは何の慰めにもならない。
依存かどうかを判断するとき、臨床の現場が見ているのは量ではなく機能である。
📘 機能障害:その行動のせいで、仕事・学業・家事・人づきあい・睡眠・健康といった生活の役割が、実際に果たせなくなっている状態。「気分が悪い」ではなく「回っていない」で判定する。
もう一つ、時間の基準が危ないのは、自分を責める材料にしかならないことである。「今日も4時間見てしまった、自分はダメだ」という自己嫌悪は、依存を弱めるどころか強める。落ち込みそのものが引き金になるからで、この仕組みは第6章で扱う。
⚠️ 時間の数え方でやりがちな失敗
- スクリーンタイムの数字だけを見て、良い日・悪い日を判定する。
- 「平均◯時間以下なら健康」という他人の基準を、自分の生活に当てはめる。
- 時間が減っていないことを理由に、進んでいないと結論づける。使い方が変わっていれば進んでいる。
ただし、スクリーンタイムの記録を見ること自体には価値がある。使うのは判定のためではなく、第6章でやる引き金の同定のためである。「何時間だったか」ではなく「何時に、何をした直後に開いたか」を見る。同じ数字でも、前者は自己嫌悪しか生まず、後者はそのまま対策になる。
診断名として存在するもの、していないもの
ここは正確に押さえておく価値がある。「ドーパミン依存」という診断名は存在しない。存在するのは次のものである。
| 呼び名 | どこに載っているか | 位置づけ |
|---|---|---|
| ゲーム症(ゲーム障害) | WHO の ICD-11 | 正式な診断名。2019年に採択され、2022年に発効した |
| 強迫的性行動症 | WHO の ICD-11 | 正式な診断名。ただし「依存症」ではなく衝動制御の障害として分類されている |
| インターネットゲーム障害 | 米国の DSM-5 | 正式な診断ではない。「今後の研究が必要な病態」として付録に置かれている |
| SNS依存 | どちらにもない | 独立した診断名として認められていない |
| ポルノ依存 | どちらにもない | 独立した診断名としては存在しない。近いものは強迫的性行動症 |
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📘 ICD-11:世界保健機関(WHO)が定める国際的な疾病分類の第11版。日本の医療現場でも診断の基準として使われる。
📘 強迫的性行動症:性的な衝動や行動を制御できない状態が続き、そのために生活が損なわれている状態。ICD-11 に収載されている。
この表から読み取ってほしいことは2つある。
1つ目。ゲームで生活が壊れることは、医学的に認められた現象である。「ゲームくらいで大げさな」と言われて相談をためらってきたなら、その遠慮は要らない。診断名があるということは、診る医師がいて、治療の対象になるということである。
2つ目。SNSとポルノには正式な診断名がない。これは「問題ではない」という意味ではなく、研究が追いついていないという意味である。特にポルノについては、注意が必要な点がある。ICD-11 の強迫的性行動症には、道徳的な非難や罪悪感だけによる苦痛では診断の要件を満たさないという但し書きが明記されている。
⚠️ ここを取り違えないでほしい
- 「見てしまった自分は汚れている」という感覚の強さは、依存の重さとは別物である。
- 実際、視聴時間よりも「自分の価値観に反している」という認識のほうが、自己申告の依存感を強く予測することが繰り返し報告されている(研究で一貫して支持されている知見)。
- つまり罪悪感が強い人ほど、実際より自分を重症だと見積もる。第12章でこの問題を正面から扱う。
なお ICD-11 には、「その他の特定される嗜癖行動症」という受け皿の分類がある。ゲーム以外の行動でも、同じ構造で生活が壊れているなら、医療の対象として扱う道は用意されているということである。「診断名がないから相談しても仕方がない」と考える必要はない。
有病率についても一言。ゲーム症に該当する人の割合は、調査によって幅が大きいが、おおむね数パーセント以内と報告されている(支持は限定的 — 使う尺度と対象国で結果が大きく変わるため、数字を断定できる段階にない)。この幅の広さから読み取るべきことは、「自分は珍しい例外ではない」という一点で足りる。
4つの物差し
診断基準の細部は覚えなくてよい。ゲーム症も強迫的性行動症も、骨格は共通していて、次の4つで測られている。
⚡ 重症度を測る4つの物差し
- 制御 — やめよう・減らそうとして、実際に減らせたか
- 優先 — 他にやるべきこと、やりたかったことより、それを優先しているか
- 継続 — 悪い結果が出ているのに、それでも続けている(むしろ増えている)か
- 機能障害 — そのせいで生活の役割が実際に果たせなくなっているか
4つのうち、最後の機能障害が最も重い。前の3つがそろっていても生活が回っているなら、まだ習慣の範囲である。逆に機能障害が出ているなら、前の3つの点数が低くても軽く見てはいけない。
4つの物差しの中に、「離脱症状」が入っていないことに気づいたかもしれない。これは意図的である。アルコールや薬物と違い、SNS・ゲーム・ポルノをやめても、けいれんや振戦のような身体の離脱症候群は起きない。起きるのはいらいら・落ち着かなさ・不眠・気分の落ち込みで、これらは主観的な症状である。
「身体症状が出ないのだから軽い」という意味ではない。主観的な症状のほうが、むしろ再開の引き金として強く働く。ただし、もし本当に手の震えや強い動悸が数日続くなら、それは別の原因(アルコール、カフェイン、睡眠薬、あるいは不安症)を疑うべき状況で、次節のレッドフラグに入れてある。
もう一つ、時間の要素がある。ゲーム症の診断では、症状がおおむね12か月以上続いていることが目安とされる(症状が重い場合は短縮されうる)。1か月ひどかったからといって依存とは呼ばない。逆に「もう3年こうだ」と言えるなら、それは一時的な波ではない。
12項目の自己診断
以下は、公表されている複数の尺度(ゲーム症・SNS使用・ポルノ使用のスクリーニング尺度)に共通する構造から組んだ自己チェックである。検証済みの診断ツールではない。点数で診断はできない。使う目的は2つだけで、いま自分がどのあたりにいるかの目安を得ることと、30日後・90日後に測り直して変化を見ることである。
対象を1つ決めてから答えてほしい(SNSならSNS、ゲームならゲーム)。複数に当てはまるなら、いちばん重い1つで測り、あとで他のものも測る。
過去12か月を思い出して、0=まったくない/1=たまに/2=しばしば/3=いつも で答える。
答えるときに、2つだけ気をつけてほしい。
1つ目。他人に見せる前提で答えない。この表は誰にも提出しない。低く答えれば、次にやることを間違えるだけである。とくに項目7〜9(問題が起きても続ける/隠す/嫌な気分から逃げる)は、認めるのが最も気まずく、そのぶん最も過小に答えられやすい。
2つ目。「いつも」を狭く取りすぎない。「毎日必ず」でなければ3にしない、と考えると全体が低く出る。週の半分以上そうなら3でよい。
答えられない項目があってもかまわない。分からないものは1として、そこに印を付けておく。分からないこと自体が、第6章で記録を取る理由になる。
| # | 項目 | 物差し |
|---|---|---|
| 1 | 使っていないときも、そのことを考えている時間が長い | 優先 |
| 2 | 前と同じ満足を得るのに、前より長い時間・強い刺激が必要になった | 制御 |
| 3 | 減らそう・やめようとしたが、できなかった | 制御 |
| 4 | 使えないとき、いらいらする・落ち着かない | 制御 |
| 5 | 予定していたより長く使ってしまうことが多い | 制御 |
| 6 | 以前は楽しめた趣味や活動への興味が薄れた | 優先 |
| 7 | 問題が起きていると分かっていながら、使い続けている | 継続 |
| 8 | 使っている量や中身について、家族や友人に隠したり嘘をついたりした | 継続 |
| 9 | 嫌な気分や不安から逃げるために使っている | 継続 |
| 10 | そのせいで睡眠時間が削られている | 機能障害 |
| 11 | そのせいで仕事・学業・家事に支障が出た | 機能障害 |
| 12 | そのせいで人間関係が悪くなった、または人と会わなくなった | 機能障害 |
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合計36点満点。目安は次のとおりである。
| 合計 | 見立て | 次にやること |
|---|---|---|
| 0〜8 | 習慣の範囲 | やめる必要はない。第7章の環境設計だけ入れて、3か月後に測り直す |
| 9〜17 | 危険な使い方 | 第5章から第9章までを、順番どおりに実行する |
| 18〜26 | 依存に近い | 同じ手順を踏むが、始める前に支えてくれる人を1人決める(第14章) |
| 27〜36 | 重い | 独力での回復は勧めない。相談したうえで、並行してこの教材を使う |
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項目10〜12(機能障害)のいずれかが3点なら、合計点にかかわらず一段上として扱う。生活が止まっているという事実は、他のどの項目よりも重い。
レッドフラグ — 点数より先に見るもの
自己診断の点数を数える前に、次を確かめてほしい。1つでも当てはまるなら、この教材を進めるより先に受診する。
⚠️ 当てはまるなら、まず医療機関へ
- 死にたい、消えたいという気持ちがある。
- 気分の落ち込み、または何にも興味が持てない状態が、2週間以上ほぼ毎日続いている。
- 仕事や学業が止まっている(退職・休職・留年・不登校がすでに起きている、または目前にある)。
- 課金や関連する支出で借金がある、または生活費に手をつけている。
- 使うのをやめると、手の震え・強い動悸・眠れない夜が数日続くなど、身体の症状が出る。
- 家族との関係が破綻しかけている、あるいは暴力が起きている。
これは「あなたは重症だ」という宣告ではない。この教材が想定している範囲の外にあるという意味である。うつ病が背景にあるときに行動の自己管理だけで押し切ろうとすると、多くの場合うまくいかず、失敗の経験が積み上がって余計に動けなくなる。
死にたい気持ちがあるときは、いま相談できる窓口がある。厚生労働省が案内している「こころの健康相談統一ダイヤル」(0570-064-556)は、電話をかけた地域の公的な相談窓口につながる。夜間や休日に受けている窓口もある。まずここでよい。
家族としてこれを読んでいる場合も、同じ窓口が使える。本人が動かないことに悩んでいるなら、本人を説得しようとするより先に、家族だけで相談したほうが早い。依存の相談窓口は家族からの相談を日常的に受けており、「どう声をかけるか」から一緒に考えてもらえる。本人を無理に連れて行こうとすると関係が壊れ、そのあとの回復がかえって遠のく。
3領域で、見立ての勘どころが変わる
同じ12項目で測っても、SNS・ゲーム・ポルノでは引っかかる場所が違う。点数の読み方も変えたほうがよい。
SNS — 機能障害(項目10〜12)が最も出にくい。連絡や仕事に使うため「必要だから」という説明がいつでも成り立ってしまうからである。代わりに高く出るのは項目1(使っていないときも考えている)と項目6(他の趣味への興味が薄れた)で、この2つが3点なら、合計が低くても軽く見ない。SNSは完全には断てないので、見立ての焦点は量ではなく「用途と時間帯が決まっているか」に置く。
ゲーム — 3つの中で唯一、正式な診断名があり、専門の外来もある。点数は高く出やすい。注意すべきは項目12(人間関係)で、ゲームの中に実際の友人関係があるとき、それを断つことは孤立を意味する。点数だけを見て「切ればいい」と判断すると、第9章で埋めるはずの空白が最大化して、かえって戻りやすくなる。
ポルノ — 最も点数が歪みやすい。すでに述べたとおり、罪悪感の強さは依存の重さとは別の軸である。加えて、項目8(隠す・嘘をつく)が指標としてほとんど機能しない。性的な行動は、依存していなくても隠すのが普通だからである。代わりに重く見るのは項目2(前より強い刺激が必要になった)と項目5(予定より長く使う)の2つになる。
⚠️ 3領域をまとめて測らない
- 3つ全部を1回の自己診断でまとめて答えると、いちばん重いものの点数が他に紛れて薄まる。
- 必ず1つずつ、対象を決めて測る。手間はかかるが、どれから手をつけるかがここで決まる。
- 3つとも高いときは、いちばん時間を奪っているもの1つから始める。同時に全部やめようとして続いた例は少ない。
併存する問題を先に疑う
依存的な使い方は、それ単独で起きていることのほうが少ない。よく一緒にあるものを挙げる。
| 隠れていることがあるもの | サイン |
|---|---|
| うつ | 落ち込み、興味の消失、朝がつらい、決められない |
| 不安・社交不安 | 人と会う予定が近づくと苦しい、断るために引きこもる |
| 注意欠如・多動症(ADHD) | 子どものころから続く先延ばし、切り替えの難しさ、退屈への弱さ |
| 不眠 | 眠れないから使う/使うから眠れない、の区別がつかない |
| 孤独 | 話す相手が週に一人もいない |
順序が大事である。うつがあってSNSに逃げているのか、SNSのせいで気分が落ちているのかは、外からは同じに見える。前者なら、SNSを断っただけでは何も良くならない。それどころか、唯一の逃げ場を失って悪化することがある。
見分ける目安を一つ挙げる。過去に、その行動をしていなかった時期にも同じ落ち込みがあったか。あったなら、依存は結果のほうである可能性が高い。判断がつかないなら、それは医師が判断することであって、自分で決める必要はない。
表に挙げた5つのうち、とくに見落とされやすいものを2つ補足する。
ADHD — 子どものころから続く先延ばし、切り替えの難しさ、そして退屈への弱さが特徴になる。ここが背景にあると、第9章で扱う「空白を埋める」の難易度が跳ね上がる。何もない時間そのものが苦痛だからで、環境設計だけでは足りない。思い当たるなら、これは治療の対象になりうる領域なので、独力で押し切ろうとしないほうがよい。
不眠 — 依存との関係が双方向で、順序がいちばん分かりにくい。眠れないから深夜に開くのか、深夜に開くから眠れないのかは、本人にも区別がつかない。実務上はどちらであっても、就寝前の1時間から端末を物理的に離すところから始める(第7章・第14章)。原因の特定を待つ必要はない。
孤独 — 話す相手が週に一人もいない状態は、それ自体が依存の維持要因になる。SNSやゲームがその唯一の接点になっている場合、断つことは接点をゼロにすることを意味する。第11章と第14章で、切る順序を扱う。
⚡ 順序の原則
- 併存する問題があるなら、そちらを先に、または同時に扱う。
- 「依存を断てば全部良くなる」は成り立たないことが多い。
- 依存を断つことは、うつや不安の治療の代わりにはならない。
うつと不安については、自分で目安を取れる質問票が公開されている。うつは PHQ-9(9項目)、不安は GAD-7(7項目)で、どちらも数分で終わり、日本語版が広く使われている。これらも診断の道具ではないが、受診したときに「こういう点数でした」と言えると話が早い。うまく説明できる自信がないなら、点数を控えて持っていくだけでよい。
どこに相談するか
「専門家に相談」と言われても、どこへ行くのか分からないまま終わることが多い。具体的に書く。
| 相談先 | 何ができるか | 費用 |
|---|---|---|
| 精神保健福祉センター | 各都道府県・政令市に必ず1か所ある公的機関。依存の相談を受け付けており、家族だけの相談もできる。地域の医療機関を紹介してもらえる | 無料 |
| 保健所 | より身近な窓口。同じく相談を受け付けている | 無料 |
| 精神科・心療内科 | 診断と治療。うつや不安が背景にあるならここが本筋 | 保険適用 |
| 依存症専門の医療機関 | 各都道府県が選定して公表している。ゲーム症は専門外来を持つ病院がある | 保険適用 |
| 自助グループ | 同じ問題を持つ人が集まる場。オンラインのものもある | 多くは無料 |
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最初の一歩としては、精神保健福祉センターへの電話が最も敷居が低い。予約も紹介状も要らず、匿名で相談でき、「病院に行くほどかどうか」を含めて一緒に考えてもらえる。本人が動けないときは、家族が先に相談することもできる。
何を話せばいいか分からないまま電話をかけると、たいてい言葉に詰まる。次の4つを事前にメモしておけば足りる。
| 用意しておくこと | 例 |
|---|---|
| 何に、どれくらいの期間 | ソーシャルゲームに、2年ほど |
| いま実際に困っていること | 2限に間に合わない日が週3回ある |
| 自分でやってみたこと | アプリを消したが3日で入れ直した |
| 聞きたいこと | 受診したほうがいいのか、どこへ行けばいいのか |
これは第5章でつくる「やめる理由」の下書きにもなる。無駄にはならない。
⚠️ 相談をためらう理由と、その実際
- 「大したことないのに行ったら迷惑」 → 軽いうちに相談するのが本来の使い方である。
- 「記録が残って将来困る」 → 精神保健福祉センターの相談に、そうした記録は残らない。
- 「ゲームやポルノの話を医師にするのが恥ずかしい」 → 依存を扱う医療者にとっては日常的な相談である。
- 「自分の意志の弱さの問題だから」 → 意志の問題ではないことを、第1章と第3章で説明している。
開始時・30日後・90日後に測り直す
自己診断は、1回だけやっても意味が半分しかない。回復しているかどうかを見るための道具だからである。
ここで指標の取り方について、この教材の立場を先に述べておく。継続日数を進捗の指標にしない。「今日で32日目」という数え方は、途中で1回崩れたときに、すべてを失ったように感じさせる。この感覚が「もう終わりだ」から一気の再燃を招くことは、再発予防の研究で繰り返し指摘されている(第13章で詳しく扱う)。
代わりに見るのは、同じ引き金に出会ったときの反応がどう変わったかである。自己診断の項目でいえば、4(使えないときのいらいら)、5(予定より長く使う)、9(嫌な気分から逃げるために使う)の3つが、その変化をいちばんよく映す。
下の表に、測った日と点数を書き込んでいく。
| 測定日 | 合計点 | 機能障害(10〜12の小計) | 気づいたこと |
|---|---|---|---|
| 開始時 | |||
| 30日後 | |||
| 90日後 |
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「気づいたこと」の欄が、実は点数より役に立つ。書くのは感想ではなく、具体的な出来事にする。「30日後:夜に開きかけて、やめた回数が数えられるくらいになった」「90日後:日曜の午後がまだ危ない」のように書けば、次の90日で手を入れる場所がそのまま見える。
点数が下がらなくても、機能障害の小計が下がっていれば前進である。逆に合計点だけ下がって機能障害が残っているなら、使い方は変わったが生活はまだ戻っていないということで、第9章(空白を埋める)と第14章(土台の底上げ)が足りていない。
⚡ 第2章の通過チェック
- レッドフラグを確認し、当てはまるものがあれば相談先を決めた
- 12項目の自己診断をやり、開始時の点数を書き留めた
- 自分の見立て(習慣/危険/依存に近い/重い)が言える
- 併存する問題の可能性を検討し、必要なら相談することを決めた
- 進捗を継続日数では測らない、と決めた
⚡ この章の暗記必須ボックス
【判定の軸】 時間ではなく 制御・優先・継続・機能障害 の4つ
最も重いのは機能障害(生活が実際に止まっているか)
【診断名】 ゲーム症=ICD-11の正式な診断名
強迫的性行動症=ICD-11にあるが「依存症」ではなく衝動制御の障害
SNS依存・ポルノ依存=独立した診断名としては存在しない
【期間の目安】 ゲーム症はおおむね12か月以上の持続が目安
【罪悪感の罠】 ポルノでは、視聴量より「価値観に反する」認識のほうが
自己申告の依存感を強く予測する
【自己診断】 12項目・36点満点。10〜12番が3点なら一段上として扱う
【レッドフラグ】 希死念慮/2週間以上の落ち込み/仕事学業の停止/借金
身体症状/家族関係の破綻 → 点数より先に受診
【最初の相談先】 精神保健福祉センター(無料・匿名可・全都道府県にある)
【進捗の指標】 継続日数ではなく、引き金に出会ったときの反応の変化
次章へ
ここまでで、自分がどの段階にいるかと、単独で進めてよい状態かどうかが分かった。次の第3章では、なぜ「やめよう」と決めた翌日に、決めたことを覚えているのに手が動いてしまうのかを扱う。意志の話ではなく、耐性・感作・手がかり反応という3つの仕組みの話である。ここが分かると、第7章の環境設計がなぜ最優先なのかも同時に腑に落ちる。