守り|睡眠とホルモン
この章の狙い
要点: テストステロンの大部分は眠っているあいだに作られる。睡眠を削ることは、その日の集中力だけでなく、ホルモンと体組成を同時に削ることである。
第1章の順位表で、体脂肪の次に置いたのが睡眠だった。理由は単純で、削った分がそのまま数字に返ってくるからである。
そしてこの章の内容は、今夜から実行できる。費用もかからない。
睡眠とテストステロンの関係
テストステロンの分泌は、1日の中で均等ではない。眠っているあいだに多く作られ、朝に最も高くなる。
若い健康な男性の睡眠を1週間、1日5時間に制限した研究では、日中のテストステロンが10〜15%低下した。年齢にすると10年から15年ぶんの変化に相当する幅である。(根拠:中程度〜強い)
さらに、睡眠不足では次のことも起こる。
- 食欲を高めるホルモンが増え、抑えるホルモンが減る(第4章の食欲の話)
- インスリンの効きが1日で悪くなる
- 注意の持続と判断の速さが落ちる(第15章)
- コルチゾールが高い状態になりやすい(第14章)
睡眠は、この教材の他のすべての章に接続している。 食事が守れないのも、トレーニングが伸びないのも、集中できないのも、原因がここにあることが多い。
一晩の中で起きていること
眠りは一定ではなく、約90分ごとに深さが入れ替わる。
前半に深い眠りが多い。 成長ホルモンの多くはここで出る。身体の修復が進む時間である。
後半は浅い眠りと、夢を見る眠りが増える。 記憶の整理と気分の調整が進む。
ここから大事な結論が出る。睡眠を削ると、削られるのは後半である。 「4時間でも深く眠れば足りる」という説明は、後半で起きていることを無視している。
- 📘 深い眠り:眠りの前半に多く現れる、身体の回復が進む段階。
- 📘 夢を見る眠り:眠りの後半に多く、記憶の整理や気分の調整に関わる段階。
何時間必要か
成人の目安は7〜9時間である。(根拠:強い)
「自分は5時間で足りる」と感じる人は多いが、実際に短時間で問題が出ない体質の人はごく少数だと考えられている。多くの場合、足りていない状態に慣れているだけである。
慣れている状態と足りている状態は、次で見分けられる。
- 目覚まし時計がなくても、ほぼ同じ時刻に起きられるか
- 午前中に強い眠気が来ないか
- 休日に2時間以上長く眠らないか
休日に大きく寝坊するなら、平日に足りていない。寝だめは借金の返済であって、貯金ではない。
眠気を決める2つの仕組み
睡眠圧。起きている時間が長いほど強まり、眠ると解消される。昼寝が長いと、夜の分が足りなくなる。
体内時計。約24時間の周期で、眠気と覚醒(かくせい)の時間帯を決めている。朝の光で時刻が合わせられ、夜の強い光で後ろへずれる。
- 📘 睡眠圧:起きているあいだに溜まっていく眠気のもと。眠ることで解消される。
- 📘 体内時計:身体が持つおよそ24時間の周期。光によって毎日調整される。
寝つけないときは、どちらが崩れているかで対処が変わる。圧が足りないなら、昼寝を短くし、日中に動く。時計がずれているなら、朝に光を浴び、起床時刻を固定する。
そして、どちらにも効くのは「毎日同じ時刻に起きる」ことである。就寝時刻より起床時刻を先に固定する。
朝にやること
起きたら光を浴びる。 屋外の光がもっとも強い。晴れた日なら5〜10分、曇りなら15〜20分。窓ぎわでも、何もしないよりはよい。
起床時刻を一定にする。 休日も、平日との差を1時間以内にとどめる。
朝に身体を動かす。 散歩でも十分である。光と運動が重なると、時計が合いやすい。
これらは「早起きするため」ではなく、その日の夜に眠くなるためにやる。夜の眠気は、朝の行動で決まっている。
カフェインの門限を決める
カフェインは、睡眠圧の合図を感じにくくする。眠気が消えるのではなく、気づけなくなるだけである。
体内で半分に減るまでの時間は、およそ5〜6時間とされる。個人差が大きく、10時間近くかかる人もいる。
目安は、就寝の8時間前まで。 23時に寝るなら15時までである。
夕方のコーヒーで「寝つけるから平気」という人でも、深い眠りが減っていることがある。寝つけることと、質が保たれていることは別である。
酒は睡眠を助けない
酒を飲むと寝つきは早くなる。しかし、その後の眠りは崩れる。
後半の眠りが分断される。 夜中に目が覚めやすくなる。
夢を見る眠りが減る。 気分と記憶の整理に関わる部分が削られる。
いびきと無呼吸が悪化する。 のどの筋肉がゆるむためである。
結果として、時間は寝ているのに回復しない夜になる。第16章で詳しく扱うが、眠るために飲むのは、目的と手段が逆になっている。
体温を下げる
人は、深部の体温が下がるときに眠くなる。この仕組みを利用する。
就寝の90〜120分前に入浴する。 湯に入ると一時的に体温が上がり、そのあと大きく下がる。この下がる局面が眠気を作る。(根拠:中程度)
寝室を涼しくする。 目安は18〜20度前後。暑い部屋では深い眠りが減る。
寝る直前の激しい運動を避ける。 体温と交感神経が上がり、寝つきが悪くなる。就寝の2〜3時間前までに終える。
寝室の条件
暗さ。わずかな光でも眠りは浅くなる。遮光(しゃこう)カーテン、機器の光を隠す、アイマスクを使う。
静けさ。音が避けられないなら、一定の音(換気扇の音や雨音のような)で覆うと、突発的な音が目立たなくなる。
寝床は眠る場所にする。 寝床で長時間、動画を見たり仕事をしたりすると、身体が「ここは起きている場所だ」と学習する。
夜の端末との付き合い方
画面の光が睡眠を妨げるとよく言われる。実際には、光そのものより、内容と時間の影響が大きいと考えられている。(根拠:中程度)
動画や短い投稿は、次を見る動機を作り続ける。気づけば1時間が過ぎる。強い感情を伴う内容は、そのあと頭が静まらない。
そこで、次の3つを決める。
- 終える時刻を決める(就寝の60分前)
- 寝室に持ち込まない(目覚ましは別の機器にする)
- 代わりにやることを決めておく(読書、ストレッチ、翌日の準備)
やめる時刻だけを決めても続かない。 代わりの行動が要る。
眠れない夜の対処
15分たっても眠れないなら、いったん寝床を出る。 暗い場所で静かに過ごし、眠気が来てから戻る。寝床で眠れないまま過ごす時間が長いと、寝床と不安が結びついてしまう。
時計を見ない。 「あと4時間しかない」と数えるほど、目が覚める。
眠れなかった翌日も、起床時刻は変えない。 ここを動かすと、時計がずれてさらに悪くなる。昼寝で補う場合は、20分まで、15時より前にする。
眠れない夜が週に3日以上、1か月以上続くなら、対処の範囲を超えている。医療機関に相談する。不眠に対しては、薬に頼らない治療法(考え方と行動を整える方法)が有効であることが分かっている。(根拠:強い)
いびきと無呼吸を見逃さない
第3章でも触れたが、重要なので繰り返す。
いびきが大きい、夜中に息が止まっていると指摘された、日中に強い眠気がある、朝に頭痛がある。 これらが重なるなら、睡眠時無呼吸の可能性がある。
この状態があると、どれだけ長く寝ても回復しない。テストステロンも下がる。そして、この教材にある工夫のほとんどが効かない。
当てはまるなら、まず検査を受ける。 治療で日中の状態が大きく変わることがある。
就寝前90分の型
最後に、今夜からできる形をまとめる。
| 時刻 | やること |
|---|---|
| 就寝90分前 | 入浴を済ませる。食事も終えている |
| 就寝60分前 | 端末を置く。部屋の照明を落とす |
| 就寝30分前 | 読書、ストレッチ、翌日の準備 |
| 就寝 | 部屋を暗く、涼しくする |
毎日同じ順番で行う。 順番そのものが、身体への合図になる。
睡眠と体組成の関係
睡眠不足は、減量の中身まで変える。
同じエネルギー制限をした人を、睡眠を十分に取る群と短く制限した群に分けた研究では、減った体重に占める脂肪の割合が、睡眠不足の群で小さかった。つまり、同じだけ痩せても筋肉が多く失われた。(根拠:中程度)
理由として、次のことが考えられている。
- テストステロンと成長ホルモンが下がる
- コルチゾールが高い状態になる
- 空腹感が強くなり、食事を守りにくくなる
- 疲労でトレーニングの質が落ちる
減量中こそ睡眠を優先する。 食事を厳しくして睡眠を削るのは、目的に対して逆向きの組み合わせである。
交代勤務や不規則な生活の場合
夜勤や不規則な勤務があると、体内時計は乱れやすい。この場合、理想の形は取れない。それでも打てる手はある。
勤務明けに強い光を浴びない。 帰り道はサングラスを使い、部屋を暗くしてから眠る。
眠る時間帯を、できるだけ固定する。 毎回違う時間に眠るより、決まった時間に寝るほうが身体は適応しやすい。
仮眠を戦略的に使う。 夜勤の前に90分、または勤務中に20分。眠気の強い時間帯を避けるためである。
カフェインを勤務の後半に取らない。 帰宅後の睡眠を削ってしまう。
- 📘 仮眠:短い睡眠。20分程度なら目覚めやすく、90分だと1つの周期を回せる。
不規則な勤務が長期に続く場合、健康への影響が報告されている。可能な範囲で、休日の生活リズムを一定に保つ。
睡眠の記録の取り方
第3章で決めた記録に、睡眠を加える。細かく測る必要はない。
就寝時刻と起床時刻。 これだけで、時間と規則性が分かる。
寝つくまでの体感の時間。 30分以上かかる日が続くなら、対処が要る。
朝の回復感を5段階で。 数字にしておくと、変えたことの効果が見える。
腕時計型の機器で測る人も多い。深い眠りの割合などの数値は、参考程度に見る。機器による精度の差が大きく、数字にとらわれて不安になると、かえって眠れなくなる。
見るべきなのは、傾向である。カフェインの門限を決めた週と、そうでない週で、回復感の平均が違うか。それだけで十分に判断できる。
昼寝の使い方
昼寝には利点があるが、条件がある。
20分まで。 それを超えると深い眠りに入り、起きたときのだるさが強くなる。
15時より前に。 遅い時間の昼寝は、夜の睡眠圧を減らす。
夜の睡眠が足りている人には不要。 昼寝が必要なほど眠いなら、まず夜の時間を確かめる。
昼寝ができない環境なら、10分の散歩でも覚醒は上がる。第15章の午後の落ち込みへの対処と重なる。
睡眠薬について
眠れない状態が続くと、薬に頼りたくなる。判断の材料を書いておく。
市販の睡眠改善薬は、抗ヒスタミン薬という別の目的の薬を使ったものが多い。翌日に眠気が残ることがあり、長く続けるための薬ではない。
処方される薬は、医師の管理のもとで使う。自己判断で人からもらう、増やす、酒と一緒に飲むといったことは危険である。
薬より先に効果が確かめられている方法がある。 不眠に対する考え方と行動を整える治療は、薬と同等かそれ以上の効果があり、やめたあとも続くとされている。(根拠:強い)
具体的には、寝床にいる時間を制限する、寝床と眠りの結びつきを取り戻す、眠りについての考えを整える、といった内容である。医療機関で受けられる。
サプリメントについて。 睡眠をうたう製品は多いが、第6章の原則がここでも当てはまる。まず光、時刻、カフェイン、酒、体温を整える。それが済んでいない段階での上乗せは、効果を判定できない。
1週間で試す順番
すべてを同時に変えないのは、この教材の一貫した方針である。睡眠でも同じ順で試す。
第1週。起床時刻を固定し、朝に光を浴びる。これだけ。
第2週。カフェインの門限を決める。
第3週。就寝前60分の端末をやめ、代わりの行動を決める。
第4週。寝室の暗さと温度を整える。入浴の時刻を調整する。
各週の終わりに、朝の回復感の平均を比べる。効いた手は残し、効かなかった手は無理に続けない。 人によって効く順番は違う。
⚠️ 睡眠でやりがちな誤り
- 「4時間でも深く眠れば足りる」と考える。削られるのは後半である。
- 就寝時刻だけを気にして、起床時刻を固定しない。
- 寝つけるからと、夕方以降にカフェインを取る。
- 眠るために酒を飲む。
- 休日に大きく寝坊して、時計をずらす。
- 眠れないまま寝床で長時間過ごす。
- いびきと日中の強い眠気を放置する。
⚡ 第13章の通過チェック
- 睡眠不足でテストステロンがどれくらい下がるか、その幅を言える
- 睡眠を削ると前半と後半のどちらが削られるかを説明できる
- 眠気を決める2つの仕組みと、それぞれの対処を言える
- カフェインの門限を、自分の就寝時刻から計算できる
- 眠れない夜の対処を3つ言える
- 受診すべき状態を挙げられる
次章へ
睡眠を整えても、頭の中が忙しいままでは眠りは浅い。次の第14章では、ストレスとメンタルを扱う。コルチゾールが何をしているのか、何が本当に効くのか、そして気分の落ち込みが続くときにどこへ相談するのかまでを決める。