食事|エネルギー収支と体組成
この章の狙い
要点: 体脂肪を適正まで落とすことが、テストステロンにも健康にも集中力にも、最も大きく効く。落とし方は「速く」ではなく「筋肉を残しながら」で決める。
第1章の順位表で、いちばん上に置いたのが体脂肪だった。この章では、なぜそこまで効くのかを説明し、実際に落とすための数字の出し方を示す。
計算が出てくるが、複雑なものはない。必要なのは、自分の体重と、1週間の平均の変化だけである。
なぜ体脂肪がここまで効くのか
体脂肪は、ただ蓄えられているだけの組織ではない。ホルモンを作り、炎症の物質を出し、全身の代謝に口を出している。多すぎると、次の5つが同時に起こる。
1. テストステロンがエストロゲンに変えられる。 第2章で見たアロマターゼは脂肪組織に多い。体脂肪が増えるほど変換が進み、テストステロンは減る。
2. インスリンの効きが悪くなる。 すると同じ食事でも脂肪がつきやすくなり、SHBGも下がる。血糖の乱高下は、日中の集中力にも直接ひびく。
3. 慢性的な軽い炎症が続く。 内臓脂肪(ないぞうしぼう)は炎症の物質を出す。この状態は精巣の働きも鈍らせる。
4. 睡眠時無呼吸が起こりやすくなる。 睡眠の質が落ち、そこからもテストステロンが下がる。第13章とつながる。
5. 動くのが億劫(おっくう)になる。 活動量が減り、筋肉が減り、さらに太る。
つまり体脂肪は、第1章で描いた輪の中心にいる。ここを動かすと、他の4つが自動的に一緒に動く。だから最初に手をつける。
- 📘 内臓脂肪:腹の奥、臓器のまわりにつく脂肪。皮下の脂肪より炎症や代謝への影響が大きい。
逆に言えば、体脂肪が20%を超えている人が、サプリメントや細かいトレーニングの工夫に時間を使うのは順番が違う。効果の大きさが1桁違う。
エネルギー収支という土台
体脂肪が増えるか減るかは、最終的に入ってくるエネルギーと出ていくエネルギーの差で決まる。これは体質や食べ物の種類より上位の原則である。
ただし「だから食べる量だけ気にすればいい」とはならない。何を食べるかは、同じエネルギー量でも、満腹感・筋肉の維持・血糖の動き・ホルモンを変える。第5章で扱う。
まず、出ていく側の内訳を知る。
基礎代謝が最も大きく、全体の6割から7割を占める。何もしなくても使う分で、筋肉量が多いほど少し高くなる。
食事の熱産生は1割ほど。食べたものを消化・吸収するときに使う分で、タンパク質でとくに大きい。
運動も1割ほど。1時間の筋トレで使うエネルギーは、多くの人が思うより小さい。
生活の中の動きが1割から2割。歩く、立つ、家事をする、貧乏ゆすりをする。ここは個人差が非常に大きく、しかも減量中に自然に減る。停滞の大きな原因になる。
- 📘 基礎代謝:寝ているだけでも消費されるエネルギー。体温の維持や臓器の働きに使われる。
- 📘 生活の中の動き:運動と呼ばない日常の動き。意識しないと減量中に静かに減っていく。
自分の消費量を出す
1日の消費量は、次の2段階で見積もる。
段階1。基礎代謝の目安を出す。体重1キログラムあたり22キロカロリーで概算する。体重70キログラムなら、70×22で約1,540キロカロリーである。
段階2。活動の程度をかける。座り仕事が中心で運動をほとんどしないなら1.3〜1.4、週に3〜4回の運動をするなら1.5〜1.6、立ち仕事や肉体労働があるなら1.7以上。
体重70キログラムで週3回の筋トレをする人なら、1,540×1.55で約2,390キロカロリーとなる。
ただし、この数字は出発点にすぎない。 計算式には誤差があり、人によっては2割ずれる。本当の数字は、2週間の実測で決める。
やり方は簡単である。2週間、食べたものを記録し、体重を毎朝測る。体重の7日平均が変わらなければ、その期間の平均摂取量が、いまのあなたの消費量である。
⚡ 消費量の出し方
- 目安:体重(キログラム)× 22 × 活動係数(1.3〜1.7)
- 本番:2週間の記録で、体重が動かない摂取量を見つける
- 計算式は出発点。実測が答え
減量のペースを決める
エネルギーを不足させれば体重は減る。問題は、減った分のうちどれだけが脂肪で、どれだけが筋肉かである。
目安は、1週間で体重の0.5〜1%。体重80キログラムなら週に0.4〜0.8キログラムである。体脂肪が多い人ほど速いペースに耐えられ、少ない人ほど遅くする必要がある。
これより速く落とすと、次のことが起きる。
- 筋肉の減少が大きくなる
- テストステロンが下がる
- 甲状腺ホルモンが下がり、代謝がさらに落ちる
- 空腹と意欲の低下で、続かなくなる
| 週あたりの減量 | 体重80キログラムでの目安 | 起きやすいこと |
|---|---|---|
| 0.25〜0.5% | 0.2〜0.4キログラム | ゆっくりだが筋肉を守りやすい |
| 0.5〜1.0% | 0.4〜0.8キログラム | 標準。多くの人に向く |
| 1.0〜1.5% | 0.8〜1.2キログラム | 体脂肪が多い人の初期のみ |
| 1.5%超 | 1.2キログラム超 | 筋肉とホルモンの代償が大きい |
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不足させる量は、1日あたり300〜500キロカロリーから始めるとちょうどよいことが多い。いきなり1,000キロカロリー削る必要はない。
体脂肪率で方針を決める
いま減量すべきか、筋肉を増やすべきかは、体脂肪率で決める。
20%を超えているなら、まず減量する。 ここが最も効果が大きい。この状態で増量しても、増えた分の多くが脂肪になり、テストステロンにも不利に働く。
15〜20%なら、目的しだい。 見た目を優先するなら減量を続ける。筋量を優先するなら、維持しながら鍛える。
8〜15%なら、筋量を増やす時期。 ここから先の減量は、得られるものより失うもののほうが大きくなりやすい。
8%を下回る状態を長く続けない。 テストステロンの低下、気分の落ち込み、性欲の低下、睡眠の悪化が起こりやすい。競技の直前など、期間を区切る場合を除いて、狙う場所ではない。
「腹筋を割る」ことと「健康である」ことは、必ずしも同じ方向ではない。目的を自分で選ぶ。
増やすときのペース
筋肉を増やす時期には、少しだけエネルギーを余らせる。ここで「たくさん食べるほど筋肉がつく」と考えると失敗する。
筋肉が増える速さには上限があり、それを超えて食べた分はそのまま脂肪になる。目安は1か月で体重の0.5〜1%、1日あたりのエネルギーは消費量プラス200〜300キロカロリーである。
トレーニング歴が長い人ほど、筋肉が増える速さは遅くなる。始めて1年目の人と5年目の人では、期待できる増加量が違う。5年目の人が1年目と同じ食べ方をすれば、増えるのは脂肪だけになる。
増量の途中で体脂肪率が20%に近づいたら、いったん減量に切り替える。行ったり来たりが正しい。片道だけを続ける人はいない。
停滞したときに疑うこと
順調に減っていた体重が、数週間動かなくなることがある。ほぼ次の4つのどれかである。
1. 記録の甘さ。 油、調味料、飲み物、間食の一部が記録から抜けている。実際の摂取量は、記録より2〜3割多いことが珍しくない。
2. 生活の中の動きが減った。 減量が進むと、身体は無意識に活動量を減らす。歩数を測っていると気づける。
3. 代謝の適応。 体重が減れば必要な量も減る。加えて、身体は省エネの方向へ調整する。この2つで、予測より1割ほど消費が下がることがある。
4. 水分の見かけ上の変化。 ストレス、塩分、睡眠不足、トレーニングの増加で水分が保たれ、脂肪が減っていても体重が動かないことがある。2〜3週間の平均で見れば分かる。
- 📘 代謝の適応:減量に伴って消費エネルギーが予測以上に下がる現象。省エネへの切り替え。
対処は、削る量を増やすことだけではない。歩数を戻す、記録を丁寧にやり直す、そして次に述べる維持期間を挟む、という手がある。
維持の期間を挟む
長い減量では、途中で2週間ほど、消費量と同じだけ食べる期間を挟むとよい。
目的は3つある。ホルモンと代謝を戻すこと、精神的に息をつくこと、そして減量後の生活に必要な「維持する練習」をすることである。
減量しかしたことがない人は、減量が終わったときに元へ戻る。維持のしかたを知らないからである。維持は、減量とは別の技術として練習しておく。
エネルギーが足りない状態が続くと
強い食事制限と多い運動量を長く続けると、身体は必要な機能から順に落としていく。この状態は男性にも起こる。
現れ方は、性欲の低下、朝の目覚めの悪さ、疲労の蓄積、風邪をひきやすい、気分の落ち込み、トレーニングで力が出ない、といった形である。テストステロンも下がる。
体重が落ちているのに気分と調子が悪い一方なら、それは順調ではない。食べる量を戻すのが正しい対処であり、さらに追い込むのは逆である。
- 📘 エネルギー不足の状態:運動で使う分に対して、食べる量が長く足りていない状態。ホルモンと骨と気分に影響する。
記録のやり方は3通りある
摂取量の管理は、続かなければ意味がない。自分に合うやり方を選ぶ。
やり方1:量って記録する。 はかりと記録用の道具を使い、食べたものを数字にする。もっとも正確で、最初の2〜4週間だけでもやる価値がある。自分の「だいたい」がどれくらいずれているかを知るためである。
やり方2:手のひらで数える。 タンパク質は手のひら1枚分、炭水化物は握りこぶし1つ分、脂質は親指1本分、野菜は両手いっぱい。これを1食の型として、毎食あてはめる。正確さは落ちるが、外食でも使える。
やり方3:食事を定型にする。 朝と昼を固定し、夜だけ変える。1日のうち2食が決まっていれば、計算するのは残り1食だけになる。忙しい人にはこれが続きやすい。
どのやり方でも、記録は毎日つける。週末だけ記録しないと、その2日で1週間分の不足が消えることがある。
- 📘 手ばかり:自分の手の大きさを目安に量を見積もる方法。道具がいらず、体格に応じた量になる。
満腹感を設計する
減量が続かない最大の理由は空腹である。意志で耐えるのではなく、同じエネルギー量でも満腹になりやすい食べ方に変える。
タンパク質を先に確保する。 3つの栄養素の中でもっとも満腹感が続く。第5章で量を決める。
食物繊維(しょくもつせんい)と水分を増やす。 野菜、きのこ、海藻、豆。かさが増えて胃が膨らむ。
加工の度合いが低いものを選ぶ。 よく加工された食品ばかりの食事では、同じ条件でも食べる量が自然に増えたという実験がある。柔らかく、早く食べられ、味が濃いほど、満腹の合図が間に合わない。
液体でエネルギーを取らない。 甘い飲み物、加糖の飲料、酒。液体は満腹感をほとんど作らないのに、量だけは確実に入る。
ゆっくり食べる。 満腹の合図が脳へ届くまでには時間がかかる。早食いはその合図を追い越す。
⚡ 空腹を減らす5つ
- タンパク質を先に確保する
- 野菜・きのこ・海藻でかさを増やす
- 加工の度合いが低いものを選ぶ
- 飲み物からエネルギーを取らない
- 早食いをやめる
食事の回数については、1日2食でも5食でも、合計が同じなら体組成への差は小さい。自分が守りやすい回数を選ぶのが正解である。
減量中に筋肉を守る3つの条件
減った体重の中身を、できるだけ脂肪に寄せる。そのために必要なのは3つだけである。
1. タンパク質を十分にとる。 減量中はとくに重要になる。量は第5章で決める。
2. 筋トレを続ける。 使われていない筋肉は、身体から見れば減らしてよい組織である。刺激を与え続けることで「これは必要だ」と伝える。減量中に重量が伸びなくても構わない。維持できていれば十分である。
3. ペースを守る。 速すぎる減量では、この2つを守っても筋肉は減る。
有酸素運動を大量に足して不足を作るより、食事で少し不足を作り、筋トレを維持するほうが結果は良い。有酸素運動の使い方は第10章で扱う。
体重が減っても見た目が変わらないとき
体重は減っているのに、鏡でも写真でも変化を感じないことがある。理由は2つある。
1つは、水分の変化に隠れている。 脂肪が減っていても、水分が増えていれば体重は動かない。数週間で必ず現れる。
もう1つは、割合の問題である。 体重が3%減っても、見た目の印象が変わるのは体脂肪率が数ポイント動いてからである。腹囲と写真のほうが、体重より早く変化を教えてくれる。
ここで焦って減量のペースを上げると、筋肉が減って「痩せたのに引き締まって見えない」状態になる。第3章の記録に戻って、7日平均と腹囲を確かめる。
減量が終わったあとが本番
減量に成功した人の多くが、その後1年から数年で戻る。これは意志の問題ではなく、身体の側の反応が絡んでいる。
減量後は、消費エネルギーが体重から予測される値より低い状態がしばらく続く。加えて、食欲を高める側のホルモンが増え、抑える側が減る。痩せた身体は、太っていたときより少ない量で太る。
だから、減量が終わったら次の順で進める。
- まず、消費量と同じ量に戻す(元の食事に戻すのではない)
- その量で体重が安定することを2〜4週間かけて確かめる
- 筋量を増やす時期に入るなら、そこから200〜300キロカロリーだけ足す
体重は毎週測り続ける。2キログラム戻ったら対処するという線を決めておくと、5キログラム戻ってから慌てることがなくなる。
- 📘 体重の戻り:減量後に体重が元へ近づく現象。消費の低下と食欲の増加が重なって起きる。
⚠️ 減量でやりがちな誤り
- 速く落とすほど良いと考える。筋肉とホルモンを失う。
- 体脂肪が20%を超えているのに増量を始める。増えるのは脂肪。
- 記録を「だいたい」で済ませる。抜けた分が停滞の正体であることが多い。
- 停滞したらすぐ食事をさらに削る。まず記録と歩数を確かめる。
- 体脂肪率を1桁前半で保とうとする。ホルモンと気分の代償が大きい。
- 減量が終わった瞬間に、以前の食べ方へ完全に戻す。
⚡ 第4章の通過チェック
- 体脂肪が多いと何が起きるかを、5つのうち3つ説明できる
- 自分の消費量の目安を計算し、実測で確かめる方法を言える
- 自分の体脂肪率から、減量か増量かを判断できる
- 減量のペースの目安を、体重の割合で言える
- 停滞したときに疑う4つを挙げられる
次章へ
ここまでで、どれだけ食べるかが決まった。次の第5章では、その中身を分ける。タンパク質はどれだけ必要か、脂質を減らしすぎるとなぜホルモンに響くのか、炭水化物は敵なのか。3つの栄養素それぞれに、体組成とホルモンから見た適量がある。