食事|微量栄養素とサプリメント
この章の狙い
要点: サプリメントで効くのは、ほぼ「足りないものを足したとき」だけ。足りている人が足しても上がらない。だから測ってから買う。
この領域は、情報がもっとも汚れている。売る側に強い動機があり、広告と学習用の記事の見分けがつきにくいからである。
そこでこの章では、順番を逆にする。まず何が不足しやすいかを知り、次に測り、最後に買う。 商品名から入らない。
- 📘 微量栄養素:ビタミンとミネラル。エネルギーにはならないが、身体の反応を進めるために少量が必要な栄養素。
なぜ「不足を埋める」だけが効くのか
第2章で、テストステロンはコレステロールから何段階もの変換を経て作られると見た。この変換を進めるのが酵素であり、酵素が働くには微量栄養素が必要になる。
ここから、この章の全体を貫く原則が出る。
必要な分がそろっていれば、それ以上足しても反応は速くならない。 足りないときだけ、足すと戻る。
これは工場に例えると分かりやすい。部品が1つ欠けていれば生産は止まるが、部品を10倍積み上げても生産量は増えない。生産量を決めているのは設備の側だからである。
だから「テストステロンを上げる栄養素」という言い方そのものが、多くの場合は不正確である。正しくは「不足していれば、埋めることで戻る栄養素」となる。
不足しやすいものは限られている
日本で暮らす成人男性で、実際に不足しやすいものは多くない。優先して確かめるのは次の4つである。
ビタミンD。日照時間と食事の両方に左右され、不足が非常に多い。冬にさらに下がる。
マグネシウム。精製された食品が多い食事では不足しやすい。
鉄。男性では不足は多くないが、持久系の運動を多くする人や、消化管からの出血がある人では起こる。
オメガ3系脂肪酸。魚を食べる回数が少ない人で不足する。
亜鉛は、日本の一般的な食事では極端な不足は多くないが、食事が偏っている人、汗を多くかく人、飲酒が多い人では下がりうる。
⚡ 順番はここでも同じ
- まず食事から取れているかを確かめる
- 次に、必要なら検査で測る
- 足りていないと分かったものだけを補う
- 足りているものを足しても、上乗せの効果はない
ビタミンD
もっとも「補う価値がはっきりしている」栄養素である。骨、筋肉、免疫(めんえき)に関わり、不足している人は多い。
測り方。血液検査の項目にある。20 ng/mL 未満は不足、30 ng/mL 以上が望ましいとされる。
補う量。不足している人で1日1,000〜2,000 IU が一般的な範囲である。上限の目安は1日4,000 IU とされ、それを超える自己判断の大量摂取は勧められない。(根拠:中程度)
テストステロンとの関係。不足している人が補うと改善したという報告がある一方、足りている人での上昇は示されていない。ここでも原則どおりである。(根拠:中程度)
日光からも作られる。ただし冬の日本、屋内で過ごす生活、日焼け止めの使用では十分に作れないことが多い。
亜鉛
テストステロンの合成に関わる酵素の働きに必要で、不足すると値が下がることが知られている。ただし足りている人が足しても上がらない。
過剰の害がある。 長く多く取り続けると、銅(どう)の吸収を妨げて貧血や神経の症状が出ることがある。目安として、サプリメントからの摂取は1日40ミリグラムを超えないようにする。
「亜鉛を大量に飲むほどテストステロンが上がる」という説明は、この点で二重に誤っている。上がらないうえ、害がある。
食事から。牡蠣(かき)、赤身の肉、レバー、卵、大豆製品に多い。
マグネシウム
300以上の酵素反応に関わり、筋肉の収縮、神経の働き、睡眠にも関係する。精製された食品が中心の食事では不足しやすい。
補う量。サプリメントから1日200〜400ミリグラム程度が一般的である。形によっては下痢(げり)を起こしやすいものがあり、その場合は種類を変える。
テストステロンとの関係。不足している人での改善は報告されるが、効果の幅は小さい。(根拠:弱い〜中程度)
食事から。海藻、ナッツ、豆、精製度の低い穀物、緑の濃い野菜に多い。
鉄
男性では「足りないか」より「足しすぎていないか」に注意が要る。鉄は排出の仕組みが乏しく、過剰に蓄積すると臓器に負担がかかる。
測らずに鉄のサプリメントを飲まない。 これはこの章でもっとも強く言っておきたい点である。
不足が見つかった場合も、なぜ不足したのかを確かめる必要がある。男性の鉄欠乏では、消化管からの出血が背景にあることがある。
オメガ3系脂肪酸
炎症を抑える方向に働き、心血管の健康に有利とされる。魚を週に2回以上食べているなら、追加は不要である。
魚をほとんど食べないなら、補う価値がある。用量は製品によって差が大きいので、含まれるEPAとDHAの合計量で比べる。
血液を固まりにくくする薬を飲んでいる人は、自己判断で始めず医師に相談する。
サプリメントを根拠の強さで並べる
1段目:効果と安全性が確かめられている
クレアチン。筋力と筋量に対する効果が、もっとも多くの研究で確かめられているサプリメントである。1日3〜5グラムを毎日とる。時間帯は問わない。腎臓が健康な人での安全性は長期の研究でも支持されている。(根拠:強い)
注意点は2つ。始めた最初の数週間で、筋肉に水分が入るため体重が1〜2キログラム増えることがある。これは脂肪ではない。もう1つは、クレアチンがテストステロンを上げるわけではないという点である。効くのは筋力とトレーニングの総量に対してである。
カフェイン。集中力と運動のパフォーマンスを高める。詳しくは第15章で扱う。
プロテインパウダー。第5章で見たとおり、食材である。不足を埋める道具として有効。
ビタミンD(不足している人) と オメガ3(魚を食べない人)。前述のとおり。
2段目:条件つきで意味がある
亜鉛とマグネシウム。不足している人にかぎる。
アシュワガンダ。ストレスの指標やコルチゾールの低下、睡眠の改善を報告する研究がある。テストステロンの上昇を報告した研究もあるが、幅は小さく、研究の質にばらつきがある。(根拠:弱い〜中程度)
安全面の注意がある。まれに肝臓(かんぞう)の障害の報告があり、甲状腺(こうじょうせん)の値に影響することもある。持病がある人、薬を飲んでいる人は避けるか、医師に相談する。
3段目:根拠が乏しい、または勧めない
いわゆる「テストステロンを上げる」とうたう製品の大半がここに入る。含まれる成分の多くは、人での試験で一貫した効果が示されていないか、動物実験と少人数の研究しかない。
さらに、この分野の製品には次の問題がある。
- 表示された量が実際には入っていないことがある
- 表示されていない成分が混入していた事例がある
- 価格が高く、続けるほど負担が大きい
買わないという判断が、もっとも費用対効果が高い。 浮いた費用を、食材、体重計、検査、ジムの会費に回すほうが確実である。
買う前に確かめる5つ
それでも買う場面はある。そのときは次を確かめる。
1. 何を解決するために買うのか。 「なんとなく身体に良さそう」で買ったものは続かないし、効果も判定できない。
2. 不足が確かめられているか。 検査、または明らかに食事から取れていないという事実。
3. 品質の確認。 第三者による検査を受けている製品かどうか。含有量が明記されているか。
4. 飲んでいる薬との関係。 薬を飲んでいるなら、薬剤師に確認する。
5. やめる基準。 何週間試して、何が変わらなければやめるのかを、買う前に決めておく。
- 📘 第三者による検査:製造者以外の機関が中身を調べる仕組み。表示と中身が合っているかの確認に使われる。
害が出る場面を知っておく
サプリメントは食品として売られているが、害が出ないという意味ではない。
過剰摂取。脂に溶けるビタミン(A、D、E、K)は体内に溜まりやすい。亜鉛や鉄も過剰の害がある。
薬との相互作用。血液を固まりにくくする薬、血圧の薬、精神科の薬などとの組み合わせで問題が起きることがある。
中身の汚染。運動の競技に出る人では、表示されていない禁止物質が混入していた事例が報告されている。検査を受けた製品を選ぶ必要がある。
症状を隠してしまう。疲れの原因が別にあるのに、サプリメントで少しだけ紛らわせて受診が遅れることがある。第3章の受診の目安に戻る。
よく見かける成分を1つずつ判定する
広告でよく見る成分を、根拠の強さで並べる。判定の理由まで書いてあるので、ここに載っていない成分に出会ったときも、同じ形で自分で判定できる。
| 成分 | 何をうたっているか | 現時点の評価 |
|---|---|---|
| クレアチン | 筋力・筋量 | 効果は確かめられている。ただしテストステロンを上げるものではない(根拠:強い) |
| カフェイン | 集中・運動能力 | 短期の効果は確か。耐性と睡眠への影響に注意(根拠:強い) |
| ビタミンD | ホルモン・骨・免疫 | 不足している人では意味がある(根拠:中程度) |
| 亜鉛 | テストステロン | 不足している人だけ。過剰は害(根拠:中程度) |
| マグネシウム | 睡眠・ホルモン | 不足している人で小さな改善(根拠:弱い〜中程度) |
| アシュワガンダ | ストレス・テストステロン | 効果は小さく、質にばらつき。肝臓と甲状腺に注意(根拠:弱い〜中程度) |
| トンカットアリ | テストステロン | 小規模な研究のみで一貫しない(根拠:弱い) |
| D-アスパラギン酸 | テストステロン | 訓練された人では効果が示されなかった報告がある(根拠:弱い) |
| フェヌグリーク | テストステロン・性欲 | 報告は割れている(根拠:弱い) |
| ボロン | 遊離テストステロン | ごく小規模な研究のみ(根拠:弱い) |
| マカ | 性欲 | 性欲の自己申告に関する報告はあるが、ホルモンの変化は示されていない(根拠:弱い) |
| DHEA | ホルモンの前段階の物質 | 日本では医薬品の成分にあたる扱いで、競技では禁止物質。自己判断で使うものではない |
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表の右端が「弱い」ばかりであることに気づいてほしい。この領域では、それが普通である。
- 📘 前段階の物質:体内で別のホルモンに変わる手前の物質。効果も副作用もホルモンに準じる場合がある。
「効いた気がする」の正体
飲み始めて調子が良くなった、という体験は本物である。しかし、その原因がその製品だとは限らない。次の3つが混ざるからである。
1. 期待による変化。 効くと思って飲むと、実際に自己申告の調子は良くなる。だから比較試験では、中身のない製品と比べる。
2. 平均への戻り。 調子が悪いときに人は買う。そして調子は放っておいても平均に戻る。買った直後は、必ず「悪い時期」の直後である。
3. 同時に変えたこと。 サプリメントを買った人は、たいてい同じ時期に食事や運動も変えている。
だから自分で判定するときは、変えるのは1つだけにする。そして期間を決める。「8週間試して、記録の数字が動かなければやめる」と先に書いておく。
- 📘 平均への戻り:極端な状態は、何もしなくても平均に近づいていく統計の性質。
費用から考える
サプリメントは月額の支出になる。金額を並べて優先順位をつけると、判断が変わる。
たとえば月に5,000円を使えるとする。使い道の候補はいくつもある。
- クレアチン(1か月あたり数百円)
- ビタミンD(不足している場合。1か月あたり数百円)
- プロテインパウダー(1か月あたり2,000〜4,000円)
- 血液検査(年に1〜2回。1回数千円)
- 食材の質を上げる(肉・魚・野菜を増やす)
- 体組成計、寝具、ジムの会費
1段目のものは、実はどれも安い。高いのは3段目の製品である。支出の大きい順に並べると、根拠の弱い順になっていることが多い。
買う前にやることの手順
順番をまとめる。この順で進めれば、無駄な買い物はほとんど起きない。
1. 2週間、食事を記録する。 何が足りていないかは、記録を見れば大半が分かる。タンパク質、野菜、魚の回数。
2. 健康診断の結果を読み返す。 貧血、肝臓、腎臓、血糖。すでに測っている情報がある。
3. 必要ならビタミンDとフェリチンを測る。 この2つは、補う判断に直結する。
4. 食事で埋められるかを先に考える。 魚を週2回にする、卵を1日2個にする、といった変更で埋まることは多い。
5. それでも埋まらない分だけ買う。 1つずつ、8週間の期限つきで試す。
医薬品との境界に気をつける
サプリメントとして売られていても、国によっては医薬品にあたる成分がある。海外の通販で入手できるものの中には、日本では医薬品の扱いになるものや、競技での禁止物質が含まれるものがある。
とくに次の3点に注意する。
海外通販の製品。成分表示が日本の基準と異なり、表示されていない成分が含まれていた事例がある。
「ホルモンに直接働く」とうたう製品。第17章で扱うが、ホルモンそのものやその前段階の物質は、食品ではなく医療の領域である。
競技に出る人。禁止物質の混入は、故意でなくても違反になる。検査を受けた製品を選ぶ。
判断に迷ったら、買う前に薬剤師に聞く。無料でできる確認としては、これがもっとも確実である。
⚠️ サプリメントでやりがちな誤り
- 測らずに買う。足りているものを足しても効果はない。
- 複数を同時に始める。どれが効いたか永久に分からない。
- 「天然だから安全」と考える。用量しだいで害は出る。
- 土台(睡眠・体脂肪・トレーニング)が崩れたまま補う。
- やめる基準を決めずに惰性(だせい)で続ける。
- クレアチンで増えた体重を、脂肪が増えたと勘違いしてやめる。
⚡ 第6章の通過チェック
- 「不足を埋めるときだけ効く」理由を、酵素の働きから説明できる
- 不足しやすい4つを挙げられる
- ビタミンDの目安と、上限の考え方を言える
- 亜鉛を大量に飲む害を言える
- 1段目に入るものを3つ挙げられる
- 買う前に確かめる5つを言える
次章へ
ここまでで、何をどれだけ食べ、何を補うかが決まった。次の第7章では、それを実際の生活に載せる。自炊できない日、外食が続く日、会食のある週、旅行。計画どおりにいかない日をどう扱うかが、長く続くかどうかを決める。