守り|阻害要因(酒・たばこ・肥満・環境)
この章の狙い
要点: 上げる手より、下げているものを外す手のほうが確実で大きい。外す順番は、内臓脂肪、睡眠、酒、たばこ、ストレス、そして最後に環境である。
第1章で「上げるより下げない」と書いた。この章は、その「下げているもの」を1つずつ扱う。
外す順番を決める
順番には意味がある。上の3つで、下の3つを全部足した以上の差がつく。 環境の話から始める人が多いが、効率としては逆である。
酒との付き合い方
酒は、この教材が扱う5つの目標すべてに関わる。
テストステロンへの影響。 慢性的な大量飲酒は、精巣の働きそのものを損なう。少量での影響ははっきりしていない。(根拠:中程度〜強い)
睡眠への影響。 寝つきは早くなるが、後半の眠りが分断され、夢を見る眠りが減る(第13章)。翌日の回復感が落ちる。
体組成への影響。 酒そのものが1グラムあたり7キロカロリーを持つうえ、食欲を上げ、判断を鈍らせる。締めの一品と揚げ物が増える。
筋肉への影響。 大量の飲酒は、トレーニング後の筋タンパク質の合成を抑えるという報告がある。(根拠:中程度)
気分への影響。 一時的に緩むが、翌日の不安を強めることが知られている。第14章の対処としては筋が悪い。
- 📘 純アルコール量:飲んだ酒に含まれるアルコールそのものの重さ。度数と量から計算する。
どれくらいなら許容できるか
日本の指針では、生活習慣病の危険を高める量として、1日あたりの純アルコール量で男性40グラム以上が挙げられている。節度ある量としては1日20グラム程度が示されてきた。
純アルコール量は、次の形で計算できる。
飲んだ量(ミリリットル)× 度数(%)÷ 100 × 0.8
ビール500ミリリットル(度数5%)なら、500×5÷100×0.8で20グラムである。日本酒1合(180ミリリットル、度数15%)で約22グラム、ウイスキーのダブル(60ミリリットル、度数43%)で約21グラムになる。
目安として、この教材では次のように考える。
- 週の合計で純アルコール100グラム以内(ビール500ミリリットルなら週5本まで)
- 1日の上限は純アルコール20〜40グラム
- 飲まない日を週に2日以上つくる
- 減量中とトレーニングの質を上げたい時期は、さらに減らす
まったく飲まないことが最も安全である。 少量なら健康に良いという説明は、近年の研究では支持が弱まっている。(根拠:中程度)
飲む日の実務
やめられないなら、被害を小さくする方法を決めておく。
1. 本数を先に決める。 飲み始めてから決めることはできない。
2. 度数の低いものにする。 同じ杯数でも純アルコール量が変わる。
3. 合間に水を飲む。 総量が自然に減り、脱水も防げる。
4. 空腹で飲まない。 吸収が速く、食べ過ぎにもつながる。
5. 就寝の3時間前までに終える。 睡眠への影響が小さくなる。
6. 翌日の予定を先に入れておく。 朝の予定があると、量は自然に減る。
たばこ
喫煙は、この教材の目標のほとんどに直接反する。
血管への害。 血流が悪くなり、勃起(ぼっき)機能の問題の危険が上がる。(根拠:強い)
精子への害。 数と運動性が落ちることが報告されている。(根拠:中程度〜強い)
心肺への害。 持久力が落ち、トレーニングの回復も遅れる。
がんと心血管の病気。 ここは説明を要しない。(根拠:強い)
テストステロンそのものについては、喫煙者で高い値が報告されることもあり、単純ではない。しかし数値がどうであれ、身体の機能としては明確に不利である。数字ではなく結果を見る。
加熱式や電子たばこは、従来のたばこより有害物質が少ないとされるが、無害ではない。長期の影響についてはまだ十分に分かっていない。(根拠:弱い〜中程度)
やめる方法については、自力より医療の助けを借りるほうが成功率が高い。禁煙外来という選択肢がある。
肥満(第4章の再確認)
内臓脂肪の多さは、この一覧の最上位である。理由は第4章で扱ったとおりで、アロマターゼによる変換、インスリンの効きの悪化、慢性の炎症、睡眠時無呼吸、活動量の低下が同時に起こる。
ここで繰り返すのは、順番を間違えないためである。体脂肪率が高い人が、環境ホルモンの心配やサプリメントの検討に時間を使うのは、効率が悪い。
薬の影響
一部の薬は、テストステロンや性機能に影響することがある。
自分が飲んでいる薬について気になる点があるなら、自己判断でやめない。中断によって元の病気が悪化するほうが、はるかに危険である。
確認の仕方。薬局で薬剤師に聞く、あるいは処方した医師に相談する。「この薬を飲み始めてから、こういう変化がある」と具体的に伝えると、代わりの選択肢を検討してもらえることがある。
化学物質と環境
プラスチックや日用品に含まれる一部の物質が、ホルモンの働きを乱す可能性が指摘されている。
現時点で言えること。 動物実験や試験管の実験では影響が示されている。人での影響については、観察研究が中心で、日常の曝露(ばくろ)でどの程度の影響があるかははっきりしていない。(根拠:弱い〜中程度)
現実的な対処。 過度に恐れる必要はないが、簡単にできることはある。
- 熱い食品や飲み物を、プラスチック容器で長時間扱わない
- 電子レンジでの加熱は、耐熱ガラスや陶器を使う
- 傷んだプラスチック容器を使い続けない
- 食事の前に手を洗う
これらは費用がかからず、害もない。ただし、この項目は一覧の最下位である。 ここに時間と不安を使うより、睡眠と体脂肪に使うほうが効果は大きい。
- 📘 曝露(ばくろ):ある物質にさらされること。量と期間によって影響の大きさが変わる。
熱と精巣
精巣は体温より低い温度で働くようにできている。ここから「熱を避けるべきだ」という話が出る。
分かっていること。 サウナ、長時間の入浴、膝の上での機器の使用、長時間の自転車は、精子の数や運動性に一時的な影響を与えうる。(根拠:弱い〜中程度)
テストステロンへの影響は小さいとされる。精子と、ホルモンの産生は別の細胞が担っているためである(第2章)。
つまり、妊娠を希望している時期には配慮する価値があるが、テストステロンのために生活からサウナや入浴をなくす必要はない。入浴には睡眠の面での利点がある(第13章)。
見落とされやすい要因
最後に、目立たないが影響のあるものを挙げる。
睡眠時無呼吸。 第3章と第13章で扱った。これがあると、他の工夫がほとんど効かない。
慢性の痛み。 睡眠を妨げ、活動量を落とす。放置せず相談する。
極端な減量の繰り返し。 減っては戻る周期を繰り返すと、ホルモンにも代謝にも不利になる。
過剰な持久トレーニング。 第10章で扱った。回復と食事に見合わない量が問題である。
孤立と慢性ストレス。 第14章のとおり、身体に出る。
酒を減らす実務
「減らす」と決めるだけでは減らない。第7章と同じで、設計で減らす。
家に置かない。 家にあれば飲む。買う頻度を減らすほうが、飲む量を我慢するより簡単である。
代わりの飲み物を用意する。 炭酸水、無糖の茶、ノンアルコールの飲料。手に何か持っていると、断りやすくもなる。
飲まない日を先に決める。 「今日は飲まない」と朝に決めておく。夜に判断すると、疲労が判断を鈍らせる(第15章)。
断り方を用意しておく。 「今週は体調を整えているので」「明日の朝が早いので」。その場で考えると受けてしまう。
記録する。 第3章の記録に、飲んだ日と純アルコール量を書く。合計を見ると、思っていた量との差に気づく。
依存が疑われるとき
次のような状態は、意志の問題ではなく、相談すべき状態である。
- やめようとしてもやめられない
- 飲む量が増え続けている
- 飲まないと落ち着かない、手が震える
- 飲酒が原因で、仕事や人間関係に問題が出ている
- 記憶をなくすことが繰り返しある
自力での断酒が危険な場合もある。 身体的な依存がある状態で急にやめると、危険な離脱の症状が出ることがある。医療機関に相談する。
たばこも同様で、禁煙外来では薬と面談の組み合わせで成功率が上がることが知られている。(根拠:強い)
「自分の意志が弱いから」と結論づけない。 依存は身体の反応であり、対処には方法がある。
外した効果はいつ現れるか
やめても、すぐには変わらない。時期の見通しを持っておくと、途中でやめずに済む。
| 変えたこと | 効果が見え始める時期 |
|---|---|
| 飲酒を減らす | 睡眠の回復感は1〜2週間で変わることが多い |
| 禁煙する | 数日で呼吸が楽になり、数週間で持久力が変わる |
| 睡眠を7時間に戻す | 数日で集中と食欲が変わる |
| 体脂肪を減らす | 数字としては8〜12週で見える |
| ストレスを減らす | 数週間で睡眠と気分から変わる |
もっとも遅いのは体脂肪である。 だからこそ12週の単位で判断する(第3章)。逆に、睡眠と飲酒は数日から2週間で体感が変わるため、最初に手をつけると続けやすい。
1つずつ外す
すべてを同時にやめようとすると、たいてい失敗する。順番をつける。
第1週から第4週。もっとも効果が大きく、自分にとって取り組みやすいものを1つ選ぶ。多くの人にとっては睡眠か飲酒である。
第5週から第8週。1つ目が習慣になってから、次に移る。
第9週から第12週。3つ目、または最初の2つの維持。
12週の終わりに測り直す。 第3章の指標で、実際に何が変わったかを見る。
外すことは、足すことより地味である。しかし、この章の一覧の上位3つを外した人は、サプリメントをいくつ足した人より確実に変わる。
⚠️ 阻害要因でやりがちな誤り
- 環境ホルモンの心配から始めて、体脂肪と睡眠を放置する。
- 「少量の酒は健康に良い」と考えて量を正当化する。
- 眠るために飲む。
- 加熱式なら害がないと考える。
- 気になる薬を自己判断でやめる。
- 妊娠の希望がないのに、入浴やサウナを過度に避ける。
- いびきと日中の眠気を放置したまま、他の対策を積み上げる。
⚡ 第16章の通過チェック
- 外す順番を、上から3つ言える
- 純アルコール量の計算ができる
- 自分の週あたりの上限を決めてある
- たばこの害を、血管・精子・心肺の3方向で言える
- 環境の話が一覧の最下位である理由を説明できる
- 熱の影響について、精子とホルモンを区別して言える
次章へ
ここまでで、自然な範囲でできることはほぼ出そろった。次の第17章では、その外側にある医療の領域を扱う。どこからが低テストステロン症なのか、補充療法とはどういうものか、そして自己判断で外部から入れることの代償は何か。境界を知っておくための章である。