地図と測定|血液検査と自己測定
この章の狙い
要点: 一般論をいくら集めても、自分の身体で何が起きているかは分からない。朝に測り、条件をそろえ、2回以上で判断する。この3つを守れば、数字は嘘をつかなくなる。
第2章で、テストステロンがどう作られ、血液の中でどんな姿でいるかを見た。この章では、それを実際に測る。
測る目的は2つある。1つは、自分がどこにいるかを知ること。もう1つは、変えたことが効いたかを判断することである。前者は最初の1回、後者はその後ずっと使う。
なお、この章は検査値の読み方を学ぶためのものであり、診断の代わりにはならない。基準を外れた値や気になる症状があるときは、必ず医療機関を受診してほしい。
測る前に条件を決める
同じ人でも、測る条件が変われば値は変わる。条件をそろえないと、変化を見ているのか、ぶれを見ているのか分からなくなる。
時間帯。朝8時から10時までに採血する。第2章で見たように、テストステロンは朝が最も高い。夕方の値を朝の基準と比べれば、当然低く出る。
空腹かどうか。血糖や中性脂肪(ちゅうせいしぼう)は食事の影響を強く受ける。10〜12時間の絶食後に測るのが基本である。
直前の運動。激しい運動の翌日は、筋肉の破壊を示す値や炎症の値が上がる。検査前の24〜48時間は激しいトレーニングを避ける。
体調。風邪をひいているとき、寝不足が続いたときは避ける。一時的に大きく動く。
回数。テストステロンは日ごとのぶれが大きい。1回で判断しない。低い値が出たら、日を変えてもう1回、同じ条件で測る。
⚡ 測るときの5つの条件
- 朝8〜10時に採血する
- 10〜12時間の絶食後
- 前日と前々日は激しい運動を避ける
- 体調が普段どおりのときに測る
- 大事な判断は2回の測定でする
何を測るか
テストステロンだけを測っても、状況は読めない。次の4つの群に分けて考える。
ホルモンの本体
総テストステロン。血液中のテストステロンの合計。基本の項目である。
遊離テストステロン。すぐ使える分。日本では、加齢に伴う男性ホルモン低下の判断でこちらが重視される。
SHBG。強く握っているタンパク質の量。総テストステロンが普通でも、これが高ければ使える分は少ない。
LHとFSH。原因の場所を切り分けるための項目。テストステロンが低いとき、これが高いか低いかで意味がまったく変わる(第2章)。
エストラジオール(E2)。男性でも必要なホルモン。極端に高い場合や低い場合に意味を持つ。
代謝のものさし
テストステロンと体脂肪、そして血糖は互いに絡んでいる。空腹時血糖、HbA1c、中性脂肪、HDL、LDL、尿酸(にょうさん)を見る。
- 📘 HbA1c:過去1〜2か月の血糖の平均を反映する値。その日の食事では大きく動かない。
血圧も忘れない。病院での1回より、自宅で朝と晩に測った平均のほうが実態に近い。
足りているかを見る
ビタミンD。日本人には不足が多い。第6章で扱うが、不足していれば埋める価値がはっきりしている数少ない栄養素である。
フェリチン。体内に貯めている鉄の量を反映する。低いと、疲れやすさや集中の続かなさが出る。
血算。貧血の有無を見る。赤血球が増えすぎていないかの確認にも使う。
見落としを防ぐ
甲状腺の働き、プロラクチン、肝臓と腎臓の値、炎症の指標。これらは「テストステロンのせいだと思っていたが違った」を防ぐための項目である。第2章で見たとおり、症状だけでは区別できない。
数字をどう読むか
検査結果には基準値の幅が印刷されている。この幅の意味を誤解している人が多い。
基準値は「多くの人がこの範囲に入る」という統計の幅であって、「この範囲なら最適」という意味ではない。 下限すれすれの人と上限近くの人では、体感が違うことがある。
一方で、幅の中での上下に一喜一憂しても意味がない。測定にはばらつきがあり、日によっても動く。動いたと言えるのは、ばらつきを超えて動いたときだけである。
検査室によって基準値も単位も違う。 日本では総テストステロンを1ミリリットルあたりのナノグラム(ng/mL)で表すことが多く、海外の資料では1デシリットルあたり(ng/dL)で書かれる。数字が100倍違って見えるので、単位を必ず確認する。
| 項目 | よく使われる目安 | 注意 |
|---|---|---|
| 総テストステロン | 3.0 ng/mL(300 ng/dL)を下回ると低めと判断されやすい | 朝の採血で2回確認する |
| 遊離テストステロン | 8.5 pg/mL 未満は低いと判断されやすい | 日本の指針で使われる目安 |
| ビタミンD | 20 ng/mL 未満は不足、30 ng/mL 以上が望ましいとされる | 冬に下がりやすい |
| フェリチン | 男性で30 ng/mL を下回れば鉄が不足している可能性 | 炎症があると高く出る |
| HbA1c | 5.6%未満が正常、6.5%以上は糖尿病型 | 中間は境界にあたる |
← 横に動かして読めます →
数値は検査室と指針によって差がある。印刷された基準値を必ず優先する。
⚠️ 数値の読み方でやりがちな誤り
- 基準の範囲に入っているから最適だと考える。
- 1回の測定だけで判断する。
- 単位を確認せず、海外の数字とそのまま比べる。
- 総テストステロンだけを見て、SHBGや遊離を見ない。
- 数値が正常なのに症状があるとき、症状のほうを無視する。
どこからが受診の目安か
この教材で扱う範囲と、医療にゆだねる範囲の線を引いておく。
次のいずれかに当てはまるなら、自己流の対処を続けるより、泌尿器科(ひにょうきか)や内分泌の専門医に相談したほうがよい。
- 朝の採血を2回行って、いずれも総テストステロンが3.0 ng/mL(300 ng/dL)を下回る
- 遊離テストステロンが8.5 pg/mL を下回る
- 性欲の著しい低下、勃起(ぼっき)機能の問題、原因の分からない強い疲労が続いている
- 気分の落ち込みが2週間以上続き、日常に支障がある
- 血糖・血圧・脂質のいずれかが、明らかに基準を外れている
- プロラクチンが高い、視野(しや)が欠ける、頭痛が続く
最後の1つは特に大事である。プロラクチンの高値と視野の異常が重なるときは、下垂体の腫瘍(しゅよう)が背景にあることがある。自己流で様子を見てよい状態ではない。
- 📘 受診の目安:自分で判断せず専門家に見てもらう境目。この教材では数値と症状の両方で示す。
なお、気分の落ち込みが強いときは、ホルモンの数値より先に、心の健康の専門家に相談する道もある。順番を間違えない。
検査をどこで受けるか
健康診断。代謝の項目はここでかなり分かる。会社の健診でもHbA1cや脂質、肝臓と腎臓の値は含まれることが多い。まずここを読み返す。
医療機関。症状があるなら受診して検査を受ける。テストステロンの測定は、症状があれば保険の対象になる場合がある。判断は医師が行う。
自費の検査。症状がなく、興味で測りたい場合はこちらになる。項目は選べるが費用がかかる。
郵送の検査。手軽だが、採血の時間帯や条件が守りにくく、測れる項目も限られる。傾向をつかむには使えるが、受診の判断はこれだけでしないほうがよい。
血液以外に測るもの
血液検査は年に1〜2回しかできない。日々の判断には、自分で測れる指標を使う。
体重。毎朝、起床後にトイレを済ませてから、同じ条件で測る。1日ごとの上下は水分の出入りで簡単に1キログラム動く。7日間の平均で見る。
腹囲(ふくい)。へその高さで測る。体重が変わらなくても、ここが減っていれば体組成は動いている。日本では男性85センチメートルが1つの目安とされる。
主な種目の重さと回数。第8章で扱うが、同じ重さで回数が増えているなら、身体は前へ進んでいる。
安静時の心拍数。朝、起き上がる前に測る。普段より5〜10拍高い日が続くなら、疲労がたまっているか、体調を崩しかけている。
睡眠時間。就寝と起床の時刻を記録する。眠った時間を正確に測る必要はなく、まず布団にいた時間から始める。
気分と意欲の自己採点。5段階でよい。数字にしておくと、あとから変化を追える。
体脂肪率。家庭用の体組成計は、絶対値の精度が高くない。しかし同じ機器・同じ条件で測れば、増減の向きは分かる。向きだけを見る。
写真。同じ場所、同じ明るさ、同じ姿勢で月に1回撮る。鏡は毎日見ていると変化に気づけない。
⚡ 毎週みる5つ
- 体重の7日平均
- 腹囲
- 主な種目の重さ×回数
- 安静時の心拍数
- 睡眠時間と気分の自己採点
12週で1周させる
測って終わりにしないために、期間を決める。
第0週に測り、第1週から第11週まで実行し、第12週に測り直す。12週というのは、体組成やホルモンの変化が数字として見えるまでにおよそそれだけかかるからである。
このとき守る原則が1つある。一度に変えるのは1つか2つまで。食事もトレーニングも睡眠も同時に変えれば、良くなったとき何が効いたのか分からない。悪くなったときも同じである。
とはいえ、崩れているものが3つあるなら、3つとも直す必要がある。そのときは順番をつける。第1章の順位表がそのまま使える。体脂肪、睡眠、トレーニングの順である。
12週ごとの判断は、次の3つだけでよい。
- 続ける(数字が動いている)
- 変える(12週やって数字が動かない)
- 相談する(悪化している、または受診の目安に当たる)
記録は1か所にまとめる
記録が複数の場所に散ると、見返さなくなる。紙のノートでも、表計算のファイルでも、端末のメモでもよい。1か所であることが条件である。
書く内容は多くなくてよい。日付、体重、腹囲、睡眠時間、気分、その日にやったトレーニングの主な種目と重さ。これで足りる。
そして、12週ごとに1行の要約を書く。「この12週で変えたこと」「数字がどう動いたか」「次の12週で変えること」。第18章で、この記録シートの形を示す。
⚠️ 記録でやりがちな誤り
- 項目を増やしすぎて続かなくなる。
- 毎日の体重の上下に反応して、方針を週単位で変えてしまう。
- 良い数字だけ記録して、悪い日を飛ばす。
- 記録したまま見返さない。12週ごとに必ず読み返す。
症状の側からも点検する
数値と症状は、どちらか一方では判断できない。数値が低くても症状がなければ治療の対象にならないし、数値が正常でも症状があるなら別の原因を探す必要がある。
自分の症状を点検するときは、次の項目を月に1回、5段階で採点しておくとよい。医療機関で使われる質問票を簡単にした形である。
| 項目 | 見るところ |
|---|---|
| 気力・やる気 | 以前は普通にできたことが、億劫(おっくう)になっていないか |
| 疲れやすさ | 休んでも回復しない疲れが続いていないか |
| 気分 | 落ち込み、いらだち、不安が増えていないか |
| 集中 | 仕事や勉強が以前より続かなくなっていないか |
| 睡眠 | 寝つき、途中で目覚める回数、朝の回復感 |
| 性欲・性機能 | 以前と比べての変化 |
| 筋力 | 同じトレーニングで力が出なくなっていないか |
| 発汗(はっかん)・ほてり | 急な発汗やほてりが増えていないか |
これは診断のための道具ではない。 点数が低いから低テストステロン症だ、とは言えない。役に立つのは、受診したときに「いつから、どの項目が、どれくらい変わったか」を具体的に伝えられる点である。
- 📘 自己記入式の質問票:自分で症状を採点する用紙。医療では参考情報として使われ、これだけで診断はしない。
疲れの原因は、テストステロンだけではない
「疲れが取れない」「集中できない」と感じたとき、原因の候補はいくつもある。テストステロンに飛びつく前に、次を確かめる。
鉄の不足。男性でも起こる。フェリチンが低ければ、疲れやすさや息切れ、集中の続かなさが出る。消化管からの出血が背景にあることもあり、原因を確かめずに鉄を足すのは危うい。
甲状腺の働きの低下。疲れ、体重増加、寒がり、気分の落ち込み。テストステロン低下と症状がよく似る。
睡眠時無呼吸(すいみんじむこきゅう)。眠っている間に呼吸が止まる状態。いびきが大きい、日中に強い眠気がある、肥満がある人では可能性が高い。これがあると睡眠の質が崩れ、テストステロンも下がる。逆に、治療すると日中の状態が大きく改善することがある。
うつ。気分の落ち込み、興味の喪失、意欲の低下。ホルモンの検査より先に相談すべき状態である。
薬の影響。一部の薬はテストステロンを下げることがある。飲んでいる薬があるなら、自己判断でやめず、医師や薬剤師に確認する。
- 📘 睡眠時無呼吸:眠っている間に気道がふさがり、呼吸が止まる状態。日中の眠気とホルモンの低下の両方に関わる。
この5つを確かめずにサプリメントを増やしても、原因はそこにないので変わらない。第1章の順位表に「まず下げているものを外す」と書いたのは、この意味も含んでいる。
「変わった」と言える幅を知る
検査値は、同じ人が同じ日に2回測っても、まったく同じにはならない。測定そのもののばらつきと、身体側の変動があるからである。
だから「先月より少し上がった」の多くは、変化ではなく揺れである。判断の目安を持っておく。
- テストステロンは、日をまたぐと1割前後は簡単に動く。2割以上の差が、2回の測定で再現されたときに、変化として扱う
- 体重は1日で1キログラム動く。7日平均で0.3キログラム以上動いて初めて傾向とみなす
- 体脂肪率は家庭用の機器では誤差が大きい。数字の上下ではなく、腹囲と写真とあわせて向きで判断する
変化を判断できるのは、条件をそろえて測ったときだけである。条件がばらばらなら、どんな差も解釈できない。
医療機関で相談するときの準備
受診が決まったら、次の3つを持っていく。医師の限られた時間を、判断のために使ってもらうためである。
1. 記録。いつから、どの症状が、どれくらい続いているか。体重と腹囲の推移。睡眠時間。
2. 過去の検査結果。健康診断の結果は捨てずに残しておく。去年との比較が、いちばん強い情報になる。
3. 飲んでいるものすべて。処方された薬、市販薬、サプリメントの一覧。サプリメントは検査値に影響することがある。
そして、聞くことを3つに絞っておく。「この症状の原因として何が考えられるか」「追加で測るべき項目はあるか」「次に確認するのはいつか」。
- 📘 お薬手帳:処方された薬の記録をまとめる手帳。市販薬やサプリメントも書き足しておくと役に立つ。
予算が限られるときの順番
自費で測るなら、費用は無限ではない。優先順位をつける。
まず健康診断の結果を読む。すでに測っているのに読んでいない項目が、ほぼ必ずある。血糖、脂質、肝臓、腎臓、血算はここに含まれることが多い。ここは追加費用がかからない。
次に、症状があるなら受診する。症状があれば必要な検査は医師が選ぶ。自分で項目を選ぶより確実で、費用も抑えられる場合がある。
それでも自分で足すなら、優先度が高いのは総テストステロン、遊離テストステロン、SHBG、ビタミンD、フェリチンである。この5つで、この教材の実践に必要な情報はおおむねそろう。
優先度が低いのは、細かいホルモンの項目を網羅的に測ることである。読み解けない数字が増えるだけで、行動は変わらない。
⚡ 第3章の通過チェック
- 測るときの5つの条件を言える
- 総テストステロン・遊離・SHBG・LHをそれぞれ何のために測るか言える
- 基準値が「最適の範囲」ではない理由を言える
- 受診の目安に当たる数値と症状を挙げられる
- 毎週みる指標と、12週ごとにみる指標を分けられる
次章へ
ここまでで地図と物差しがそろった。第4章からは実際に手を動かす。最初に扱うのは、第1章で「もっとも効果が大きい」とした体脂肪である。なぜ体脂肪がここまで効くのか、そしてどうやって落とすと筋肉を保てるのか。数字の出し方から入る。