食事|マクロ栄養素
この章の狙い
要点: 決める順番は、タンパク質、脂質の下限、残りを炭水化物。この順番を守るだけで、筋肉とホルモンの両方が守られる。
第4章で「どれだけ食べるか」が決まった。この章では、その中身を3つに分ける。
3つとは、タンパク質、脂質、炭水化物である。この3つはエネルギーを持つので、まとめて三大栄養素と呼ばれる。
- 📘 三大栄養素:タンパク質・脂質・炭水化物。エネルギーになり、必要量がグラム単位で決まる栄養素。
エネルギー量は、タンパク質と炭水化物が1グラムあたり4キロカロリー、脂質が9キロカロリーである。脂質だけ2倍以上あることは覚えておくとよい。少量でエネルギーが大きい。
タンパク質を最初に決める
タンパク質は筋肉、内臓、皮膚、酵素、ホルモンの材料になる。筋肉を増やす時期にも、減量で筋肉を守る時期にも、いちばん先に確保する。
量の目安は、体重1キログラムあたり1.6〜2.2グラム。 体重70キログラムなら1日112〜154グラムである。(根拠:強い)
研究をまとめると、1.6グラムのあたりで筋肥大の効果はほぼ頭打ちになる。それ以上は無駄というより、保険として意味がある。とくに次の場合は多めにする。
- 減量中(エネルギーが不足しているぶん、筋肉が削られやすい)
- トレーニング歴が長い
- 年齢が上がってきた(同じ量への反応が鈍くなる)
減量中は体重1キログラムあたり2.0〜2.4グラムを目安にする。体脂肪が非常に多い人は、体重ではなく除脂肪体重を基準にしたほうが現実的な量になる。
- 📘 除脂肪体重:体重から脂肪の重さを引いた分。筋肉や骨や内臓の重さの合計。
上限について。 腎臓(じんぞう)が健康な人では、高めのタンパク質摂取が害になるという確かな根拠はない。ただし腎臓の病気がある人は別で、医師の指示に従う。
タンパク質の配り方
同じ量でも、1食にまとめるより分けたほうが有利である。
1食あたり体重1キログラムにつき0.4グラム前後を、1日3〜4回。体重70キログラムなら1食28グラム前後を4回で112グラムになる。
図を見ると分かるが、主食からはほとんど取れない。ごはん1杯で約4グラムである。肉、魚、卵、乳製品、大豆製品を、毎食どれか入れる必要がある。
朝食が抜けている人は、そこが最大の穴になっていることが多い。朝に卵2個と納豆を足すだけで20グラムが埋まる。
質の違いもある。 動物性のタンパク質は、筋肉の合成のスイッチを入れるロイシンというアミノ酸を多く含む。植物性でも量を増やし、種類を組み合わせれば十分に届く。
- 📘 ロイシン:必須アミノ酸の1つ。筋肉のタンパク質合成を始める合図として働く。
⚡ タンパク質の目安
- 通常期:体重1キログラムあたり1.6〜2.2グラム
- 減量期:体重1キログラムあたり2.0〜2.4グラム
- 1食:体重1キログラムあたり0.4グラム前後を3〜4回
- 主食からはほとんど取れない。毎食おかずで確保する
脂質はホルモンの材料になる
脂質を「太る原因」として避ける人がいる。しかし第2章で見たとおり、テストステロンの材料はコレステロールであり、その供給には脂質が関わる。極端に減らすと不利になる。
総エネルギーの20〜35%を目安にする。 2,400キロカロリーの人なら、480〜840キロカロリー、グラムに直すと約53〜93グラムである。
低脂肪の食事とテストステロンの関係を調べた研究をまとめた報告では、脂質の割合を大きく下げた食事で総テストステロンが1割前後下がったとされている。研究の質にはばらつきがあるため、断定はできないが、下げすぎないほうがよいと考えるのが妥当である。(根拠:中程度)
種類も見る。
オメガ3系の脂肪。青魚に多く含まれる。炎症を抑える方向に働き、心血管の健康に有利とされる。週に2回以上、魚を食べるのが基本の形である。(根拠:中程度)
一価不飽和脂肪。オリーブ油、菜種油、ナッツ、アボカドに多い。日常の油はここを中心にする。
飽和脂肪。肉の脂身、バター、乳脂肪。極端に減らす必要はないが、多すぎるとLDLコレステロールが上がりやすい。全体の脂質の3分の1程度までを目安にする。(根拠:中程度)
トランス脂肪。工業的に作られたものは、減らすほどよい。(根拠:強い)
- 📘 オメガ3系脂肪酸:青魚や亜麻仁油に多い脂肪。体内でほとんど作れないため食事から取る。
- 📘 LDLコレステロール:血液中で増えすぎると動脈硬化の危険を高めるとされるコレステロール。
炭水化物は敵ではない
炭水化物を減らすと体重は速く落ちる。しかしその多くは、最初の1〜2週間では水分である。炭水化物は水を一緒に蓄えるからである。
炭水化物には、体組成とホルモンの両面で役割がある。
トレーニングの燃料になる。 高い強度の筋トレは、主に糖を使う。足りないと、後半のセットで力が出ず、総量が減る。
コルチゾールを抑える方向に働く。 激しいトレーニングを続けながら炭水化物を極端に減らすと、コルチゾールが高い状態が続きやすい。
甲状腺ホルモンと関わる。 長期の低炭水化物では、活性型の甲状腺ホルモンが下がることがある。
眠りにも関わる。 極端に減らすと寝つきが悪くなる人がいる。
低炭水化物の食事がテストステロンを下げるかどうかは、研究の結果が割れている。ただし、運動量が多い人が炭水化物を極端に減らすと不利になりやすい点は、多くの報告で一致している。(根拠:中程度)
つまり、炭水化物は「減らすほど良い」ものでも「好きなだけ食べてよい」ものでもない。残りの枠を埋めるものである。
配分を決める手順
体重70キログラム、消費量2,400キロカロリー、減量のために2,000キロカロリーで進める人を例に計算する。
1. タンパク質。 減量中なので体重1キログラムあたり2.0グラムとして140グラム。エネルギーは140×4で560キロカロリー。
2. 脂質。 総エネルギーの25%として500キロカロリー。グラムに直すと500÷9で約56グラム。
3. 炭水化物。 残りは2,000−560−500で940キロカロリー。940÷4で約235グラム。
これで、タンパク質140グラム、脂質56グラム、炭水化物235グラムという配分が出る。
先に炭水化物を決めてはいけない。 好きなものから決めると、タンパク質か脂質のどちらかが必ず削られる。順番そのものが要点である。
食物繊維と水分
三大栄養素ではないが、量を決めておくべきものが2つある。
食物繊維。1日20〜25グラム以上を目安にする。満腹感、血糖の安定、腸内環境、コレステロールのいずれにも関わる。野菜、豆、海藻、きのこ、精製度の低い穀物から取る。
水分。体重1キログラムあたり30〜35ミリリットルが目安である。体重70キログラムなら2.1〜2.5リットル。運動量が多い日や暑い日はさらに増える。
脱水(だっすい)は、集中力の低下、頭痛、トレーニングでの力の低下として現れる。喉が渇いてからでは遅いと考え、時間で区切って飲む。
- 📘 食物繊維:消化されずに大腸まで届く成分。満腹感と腸内環境に関わる。
何を食べるかも効く
同じ配分でも、選ぶ食品によって結果は変わる。ここは「エネルギー量がすべて」という話の限界である。
加工の度合いが低いものを中心にする。 第4章で触れたとおり、よく加工された食品が多い食事では、同じ条件でも食べる量が自然に増える。
赤身肉と加工肉。 加工肉は多く食べるほど大腸の病気の危険が上がるとされる。日常的に大量に食べるのは避ける。(根拠:中程度)
野菜と果物。 微量栄養素と食物繊維の主な供給源になる。果物は糖質を含むが、丸ごと食べるかぎり問題になりにくい。果汁だけの飲料は別である。
大豆製品。 「大豆はテストステロンを下げる」という説があるが、通常の食事量では男性ホルモンや精子への悪影響は示されていない。(根拠:中程度)
タンパク質を実際に足す方法
計算では140グラムでも、食べる段になると届かない。よくある不足の埋め方を挙げる。
朝に20グラム足す。 卵2個で約12グラム、納豆1パックで約8グラム。これだけで20グラムになる。ヨーグルトやチーズでもよい。
間食を置き換える。 菓子をやめてゆで卵、ちくわ、ギリシャヨーグルト、するめ、豆乳に替える。同じエネルギー量でタンパク質の量が数倍になる。
プロテインパウダーを使う。 1杯で20〜25グラムを、水に溶かすだけで足せる。ここで大事な位置づけを1つ。プロテインパウダーは特別な食品ではなく、粉になった食材である。 食事から足りているなら要らないし、届かないなら便利な道具になる。第6章でもう一度扱う。
外食の選び方を変える。 定食を選び、主菜を魚か肉にする。丼ものや麺類だけの日が続くと、タンパク質は簡単に不足する。
脂質を実際にどう取るか
脂質は「意識して足す」より「知らずに取りすぎる」ほうが多い。揚げ物、菓子、洋菓子、ドレッシング、脂身の多い肉で、あっという間に枠を超える。
だから実務は、質の良い脂質を先に確保し、残りを絞るという形になる。
先に確保するもの。魚(週2回以上)、オリーブ油や菜種油、ナッツ(1日25グラムほど)、卵。
絞るもの。揚げ物、洋菓子、加工肉、脂身の多い部位の食べ過ぎ。
魚が食べにくい人は、缶詰を使う手がある。さばやいわしの水煮なら、そのままでも料理にも使える。
炭水化物をいつ取るか
1日の合計が同じなら、時間帯による差は小さい。とはいえ、次の2点は実際に効く。
トレーニングの前後に置く。 高い強度の運動では糖が主な燃料になる。トレーニングの1〜3時間前に炭水化物を含む食事をとると、後半まで力が続く。終わったあとの食事でも補う。
夜に極端に減らさない。 「夜の炭水化物は太る」という説は、合計が同じなら支持されていない。むしろ夜に取ったほうが寝つきが良いという人もいる。(根拠:弱い〜中程度)
質も見る。 精製度の低い穀物(玄米、全粒の小麦、オートミール)は食物繊維を含み、血糖の上がり方も緩やかになる。菓子パンや甘い飲み物のように、糖だけが急に入るものは、そのあとの眠気と空腹を招く。
- 📘 血糖の乱高下:糖が急に入って血糖が跳ね上がり、その反動で急に下がる動き。眠気と空腹の原因になる。
第15章の集中力の話は、ここに直結する。昼食の中身を変えるだけで、午後の状態は変わる。
食事の回数と時間の制限
近年よく話題になる食べ方について、現時点での見方を整理する。
1日の食事回数。合計が同じなら、体組成への差は小さい。守りやすい回数を選ぶ。ただしタンパク質は、3〜4回に分けたほうが有利である。
時間を区切る食べ方。1日のうち8時間だけ食べる、といった方法である。体重の減少という点では、同じエネルギー量の普通の食事と比べて大きな差は出ていない。効果の正体は、食べる時間が短くなって総量が減ることにある。(根拠:中程度)
ただし、筋トレをしている人には注意点がある。食べる時間が短いと、タンパク質の総量と分配が崩れやすい。無理に時間を詰めるより、まず総量を満たすほうが優先される。
朝食を抜くことそのものが太る原因になるとは言えない。しかし、朝食を抜いた分を夜に取り戻す人は多く、タンパク質も不足しやすい。抜くなら、その日の合計を確かめる。
1日の組み立て例
配分が決まっても、実際の皿に置き換えられなければ意味がない。体重70キログラム、2,000キロカロリー、タンパク質140グラムの例で3通り示す。
自炊が中心の日
| 食事 | 内容 | タンパク質 |
|---|---|---|
| 朝 | ごはん、卵2個、納豆、みそ汁 | 約22グラム |
| 昼 | 鶏むね肉150グラム、ごはん、野菜 | 約38グラム |
| 間食 | ギリシャヨーグルトとナッツ | 約12グラム |
| 夜 | さけ1切れ、豆腐、野菜、ごはん少なめ | 約35グラム |
| 追加 | プロテインパウダー1杯 | 約23グラム |
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コンビニが中心の日
| 食事 | 内容 | タンパク質 |
|---|---|---|
| 朝 | ゆで卵2個、おにぎり1個、無糖の飲み物 | 約16グラム |
| 昼 | 焼き魚の弁当、サラダ | 約30グラム |
| 間食 | サラダチキン | 約25グラム |
| 夜 | 豆腐、納豆、雑穀のおにぎり、みそ汁 | 約25グラム |
| 追加 | プロテインパウダー2杯 | 約46グラム |
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外食が多い日
| 食事 | 内容 | 工夫 |
|---|---|---|
| 朝 | ヨーグルトとバナナ | 家で済ませる |
| 昼 | 定食(焼き魚か生姜焼き) | 丼ものより定食を選ぶ |
| 夜 | 居酒屋(刺身、焼き鳥、枝豆、冷ややっこ) | 揚げ物と締めの麺を外す |
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外食で完璧を目指す必要はない。タンパク質の主菜を1つ選び、揚げ物と締めを外す。これだけで大きく変わる。
数字が動かないときの見直し
配分どおりに食べているのに変化がないときは、次の順に確かめる。
1. 合計が本当に守れているか。 記録の抜けが最も多い原因である(第4章)。
2. タンパク質が届いているか。 目標の8割しか取れていない、はよくある。
3. 脂質が下がりすぎていないか。 総エネルギーの15%を下回っていると、続けにくく、ホルモンにも不利になる。
4. 炭水化物が足りているか。 トレーニングの質が落ちているなら、ここを疑う。
5. 変えてから何週間たったか。 2週間では判断できない。第3章で決めた12週の単位で見る。
配分は、いちど決めたら12週間は動かさない。毎週いじると、何が効いたのか永久に分からなくなる。
⚠️ 配分でやりがちな誤り
- タンパク質を「多ければ多いほど良い」と考え、脂質を削る。
- 脂質を総エネルギーの15%以下まで下げる。ホルモンに不利。
- 炭水化物を敵とみなし、運動量が多いまま極端に減らす。
- 最初の1〜2週間の体重の落ちを、脂肪の減少だと思い込む。
- 主食でタンパク質が取れていると勘違いする。
- 食物繊維と水分を数えていない。
⚡ 1日の枠の作り方(体重70キログラム・2,000キロカロリーの例)
- タンパク質 140グラム(560キロカロリー)
- 脂質 56グラム(500キロカロリー)
- 炭水化物 235グラム(940キロカロリー)
- 食物繊維 20グラム以上、水分 2.1リットル以上
⚡ 第5章の通過チェック
- 3つを決める順番と、その理由を言える
- 自分の体重からタンパク質の目標量を計算できる
- 脂質を下げすぎてはいけない理由を、第2章の内容とつなげて言える
- 炭水化物の役割を3つ挙げられる
- 食物繊維と水分の目安を言える
次章へ
ここまでで、量と配分が決まった。次の第6章では、微量栄養素とサプリメントを扱う。ここは情報が最も汚れている領域で、「効く」と言われるものの大半は効かない。根拠の強い順に並べ替え、何を買い、何を買わないかを決める。