トレーニング|筋肥大プログラムの設計
この章の狙い
要点: 分割は「どれが最適か」ではなく「どれなら通えるか」で選ぶ。決めたら6〜12週は変えない。変えるのは種目ではなく、重さと回数である。
第8章の原理を、1週間の予定表に落とす。ここで作るのは、紙に書けて、崩れても戻れる計画である。
計画の作り方には順番がある。回数を決め、分割を決め、種目を割り当て、量を決め、進め方を決める。この順で埋めていく。
手順1:週に何回できるかを決める
理想の回数ではなく、悪い週でも実行できる回数を書く。週4回の予定を立てて2回しかできない月が続くなら、その計画は週2回の計画である。
判断の材料は3つ。使える時間、移動時間、回復にあてられる睡眠時間。
週2回でも筋肉は増える。 第8章で見たとおり、1部位あたり週2回の刺激が確保できていれば、総量が同じなら結果は大きく変わらない。
手順2:分割を決める
週2回なら全身を2つの型に分ける。 1回に5〜6種目。押す・引く・脚を毎回入れ、種目だけAとBで変える。
週3回なら全身を3つの型に分ける。 1回に5種目ほど。1部位あたり週2〜3回まわる。
週4回なら上半身と下半身に分ける。 1回に4〜5種目。1回が短くなるぶん、集中しやすい。
週5回以上は、必要になるまで採用しない。 回復と生活の余白を先に使い切ると、続かない。
- 📘 分割:全身をどう分けて、どの日に何を鍛えるかの割り当て。
どの型でも、1つの部位が週2回まわるようにする。週1回しか刺激できない分割は、1日に詰め込む量が多くなりすぎて、後半の質が落ちる。
手順3:種目を割り当てる
第8章の6つの動きの型(水平に押す、上に押す、水平に引く、上から引く、しゃがむ、股関節を折る)を、各回に散らす。
週2回・全身の例
| 全身A | 全身B | |
|---|---|---|
| 1種目目 | スクワット | デッドリフト(またはヒップヒンジ) |
| 2種目目 | ベンチプレス | 肩の押し上げ |
| 3種目目 | ラットプルダウン(または懸垂) | ロウ |
| 4種目目 | レッグカール | レッグプレス |
| 5種目目 | 腕の種目 | 肩の横・腹 |
← 横に動かして読めます →
週4回・上下分割の例
| 上半身 | 下半身 | |
|---|---|---|
| 1種目目 | ベンチプレス | スクワット |
| 2種目目 | ロウ | ルーマニアンデッドリフト |
| 3種目目 | 肩の押し上げ | レッグプレス |
| 4種目目 | ラットプルダウン | レッグカール |
| 5種目目 | 腕・肩の横 | ふくらはぎ・腹 |
← 横に動かして読めます →
種目名は入れ替えてよい。大事なのは動きの型がそろっていることであって、特定の種目ではない。器具がない、痛みが出る、そういう理由で替えるのは正しい判断である。
手順4:量と回数を決める
第8章の目安をそのまま使う。
- 1部位あたり週10セット前後から始める
- 回数は6〜12回を中心に、8〜20回も混ぜる
- あと1〜3回できるところで止める
- 休息は2〜3分
具体的には、1種目あたり3セットが扱いやすい。週2回の全身なら、胸は各回3セットで週6セット。ここに肩の押し上げが加わるので、押す動きとしては十分な量になる。
部位ごとに合計する。 「胸のセット数」だけを数えると少なく見えるが、押す種目は肩と腕にも刺激が入っている。逆に、腕を毎日鍛えると、押す・引く種目のぶんと合わせて過剰になる。
手順5:進め方を決める
第8章の進め方をそのまま使う。回数の幅を決め、上限に全セットで届いたら重さを2.5〜5%上げる。
重さの刻みが粗い器具では、回数を伸ばす期間が長くなる。それでよい。回数が増えているなら前進している。
4週間まったく動かないなら、第8章の停滞の手順に入る。睡眠、食事、総量、追い込み方、種目の順に見る。
期間で区切る
同じ量を延々と続けると、疲労が少しずつ溜まる。4〜6週ごとに、1週間だけ量を落とす期間を置く。
やり方は簡単で、その週はセット数を半分にするか、重さを2割落とす。やめてしまうのではなく、軽くする。
- 📘 軽くする週:疲労を抜くために、量や強度を意図的に落とす1週間。回復を待つための時間。
この週を挟むと、次の週から重さが伸びることが多い。疲労が抜けて、本来の力が出せるようになるからである。
疲れていないなら、無理に置く必要はない。目安は、次のどれかが当てはまったときである。
- 同じ重さで回数が2週続けて落ちた
- 関節の痛みや違和感が出ている
- 睡眠が浅く、安静時心拍数が高い日が続く(第3章)
- トレーニングに向かう気が明らかに落ちている
減量期と増量期で変えること
食事の状態によって、トレーニングの目標が変わる。
増量期。重さと回数を伸ばす時期である。総量を増やしてよい。伸びが記録に出やすい。
減量期。伸ばすのではなく、維持を目標にする。エネルギーが不足しているため、記録が伸びないのは当然である。
減量期にやってはいけないのは、量を増やして帳尻を合わせようとすることである。回復が追いつかず、けがと疲労が増える。
減量期の原則は3つ。 強度(重さ)を落とさない、総量は少し減らしてよい、有酸素運動で不足を作りすぎない。重さを落とすと筋肉が減りやすいので、そこは守る。
部位に優先順位をつける
すべてを同時に伸ばそうとすると、どれも中途半端になる。1つの時期に、優先する部位を1つか2つ決める。
やり方は単純で、優先する部位をその日の最初に持ってくる。疲れていない状態で行える。加えて、週のセット数をその部位だけ増やす。
優先しない部位は、維持の量(週6〜10セット)で構わない。3か月ごとに入れ替える。
計画を変えてよいとき
計画を頻繁に変える人ほど、伸びが遅い。前回と比べられなくなるからである。
6〜12週は変えない。 変えるのは重さと回数だけ。
種目を替えてよいのは、次の場合である。
- 痛みが出る
- 器具が使えない
- 4週間の停滞が、第8章の手順を踏んでも解けない
- 12週が終わって、次の時期に入る
飽きたから変えるは、理由として弱い。ただし、飽きて行かなくなるくらいなら、替えたほうがよい。ここは実務の判断である。
1週間の記録の形
紙でも表計算でもよい。次の形で足りる。
| 日付 | 種目 | 重さ | 回数 | 余裕 |
|---|---|---|---|---|
| 4/8 | スクワット | 80キログラム | 8・8・7 | 2 |
| 4/8 | ベンチプレス | 60キログラム | 10・9・9 | 1 |
| 4/8 | ラットプルダウン | 50キログラム | 12・11・10 | 2 |
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「余裕」は、最後のセットであと何回できたかを書く。これがあると、次回に重さを上げるか回数を伸ばすかの判断ができる。
その場で書く。 帰ってから思い出して書くと、必ずずれる。
最初の12週の見取り図
初めて計画を立てる人向けに、12週の流れを示す。
第1〜2週。フォームを固める期間。重さは軽く、回数は多めに。記録の付け方に慣れる。
第3〜6週。回数を積み、上限に届いた種目から重さを上げる。
第7週。軽くする週。
第8〜11週。同じ計画で進める。この時期に、どの種目が伸び、どれが止まっているかが見えてくる。
第12週。測り直す(第3章)。体重、腹囲、写真、主な種目の記録。次の12週で優先する部位と、変える点を1つか2つ決める。
1週間のどこに置くか
同じ週3回でも、置き方で回復は変わる。
連続する日を避ける。 月・水・金のように1日あけると、同じ部位の回復が進んだ状態で次に入れる。
連続せざるを得ないなら、部位を分ける。 上半身のあとに下半身を置けば、同じ筋肉を続けて使わずに済む。
睡眠が短い日の翌日に、重い種目を置かない。 記録が落ちるだけでなく、フォームも崩れやすい。
週末にまとめるのは、次善の策。 平日にどうしても取れないなら土日でよい。ただし、その2日が潰れた週は0回になる。平日に1回だけでも入れておくと、崩れに強くなる。
忙しい週の縮小版を先に決めておく
計画は「うまくいく週」ではなく「崩れる週」で試される。あらかじめ、30分で終わる縮小版を書いておく。
30分版。大きな種目を2つだけ。上半身の日ならベンチプレスとロウ。下半身の日ならスクワットとルーマニアンデッドリフト。各3セット。
15分版。1種目を3セット。それでもゼロではない。
縮小版の目的は、成果を出すことではなく習慣を切らさないことである。3週間行かなくなると、戻るのに大きな意志が要る。週1回でも通っていれば、忙しい時期が終わったときにそのまま戻せる。
- 📘 縮小版:時間がない日のために先に決めておく、最小の内容。判断を減らすために事前に書いておく。
セット数を増やすときの手順
伸びが止まって「量を増やす」と決めたら、増やし方にも作法がある。
1度に増やすのは、1部位あたり週2セットまで。 いきなり倍にすると、回復が追いつかず、翌週の記録が落ちる。
増やしてから2週間は様子を見る。 記録が伸びれば正解、落ちれば増やしすぎである。
増やす前に、いまの量をやり切れているかを確かめる。 予定は週12セットでも、実際には8セットしかできていないことがある。記録を見れば分かる。
上限の目安は第8章のとおりで、1部位あたり週20セットを超えたあたりから、増やしても伸びにくくなる。それ以上を追うより、睡眠と食事を整えるほうが早い。
分割選びでよくある迷い
「部位別の5分割にしたい」。 1部位を週1回にすると、1日の量が多くなり、後半のセットの質が落ちる。1部位あたり週2回に届く分割を選ぶほうがよい。
「上級者と同じ計画をやりたい」。 上級者の高い量は、回復の能力と長い経験の上に乗っている。同じ量を初心者が採用すると、疲労だけが残る。伸びが速い時期は、単純な計画のほうが速い。
「毎日行きたい」。 行くこと自体は問題ないが、同じ部位を毎日追い込むのは別の話である。毎日行くなら、1回を軽くして部位を散らす。
「有酸素運動と同じ日にやってよいか」。 第10章で扱う。結論だけ書くと、順番と量しだいである。
年齢と回復
年齢が上がると、同じ量への回復に時間がかかるようになる。20代と同じ頻度で追い込むと、疲労が抜けなくなる。
変えるのは、量より回復の条件である。睡眠を優先し、軽くする週を早めに入れ、関節に負担の大きい種目を代わりの種目に替える。
一方で、筋肉が増える能力そのものは、年齢が上がっても残っている。 増える速さは落ちるが、方向は同じである。やり方を年齢に合わせれば、伸ばすことはできる。
4週ごとに記録を見返す
記録は、書くだけでは意味が半分しかない。4週間ごとに見返す時間を取る。
見るのは3つだけでよい。
1. 伸びている種目はどれか。 そこは計画どおりに進んでいる。触らない。
2. 止まっている種目はどれか。 4週間動いていないなら、第8章の停滞の手順に入る。
3. 予定どおり実行できた回数はどれくらいか。 週3回の計画で、月に8回しかできていないなら、それは週2回の計画に直すべきという合図である。計画を現実に合わせる。
この3つを、12週の終わりにもう一度まとめる。第18章の記録シートは、そのための形になっている。
⚠️ 計画でやりがちな誤り
- 通えない回数で計画を立てる。
- 週1回しか刺激しない分割で、1日に詰め込む。
- 毎週のように種目を入れ替える。
- 減量期に記録が伸びないことを、計画の失敗だと考える。
- 疲労が溜まっているのに、軽くする週を置かない。
- すべての部位を同時に伸ばそうとする。
- 記録をその場で書かず、あとから思い出して書く。
⚡ 第9章の通過チェック
- 自分が「悪い週でも」実行できる回数を答えられる
- その回数に合う分割を選べる
- 6つの動きの型を、自分の計画に割り当てられる
- 軽くする週を置く目安を3つ言える
- 減量期に守る原則を3つ言える
- 計画を変えてよい4つの場合を言える
次章へ
筋トレの計画ができた。次の第10章では有酸素運動を扱う。心肺と代謝には効くが、量を間違えると筋肉の成長を邪魔する。どれだけ、どの強度で、いつやるか。筋トレとの干渉をどう避けるかまで決める。